以前読んだ、「経営戦略全史」の第二弾。
ビジネスとは、お客様に、ある価値を生み出したり、調達した価値を提供することで収益を生み出している。つまり、ビジネスモデルとは、利益を生み出す製品やサービスに関する事業戦略と収益構造を示している。単純なビジネスモデルだと競合他社が多いため生き残るのが難しい。大企業やいまをときめくイノベーティブな企業というのは、独自の革新的なビジネスモデルで成長してきたのである。今回は14世紀イタリア・メディチ家からいまと時めくIT企業まで、ビジネスモデル70個とともに、先駆者たちの栄枯盛衰の歴史を描いている。
分厚い割りにサクサク読める。コロナで在宅時間が長くなっているので、社会人や経営学に興味がある大学生は、時間の有効活用で読んでみるといいと思う。実は「経営戦略全史」もそうだが、漫画版があるので、活字は眠たくなる人は漫画版がいいだろう。
現在キャッシュレスが進んでいるが、まず大きな金融のイノベーションを起こしたのはメディチ家である。メディチ家はフィレンツェを繁栄に導き、ダヴィンチなどのパロトンにもなり、フランス王室とも婚姻関係を結んだ名家である。当時、道中において襲われる危険性があり、通貨の輸送は大変危険だった。そこで、メディチ家は、例えばイタリアにおいてイタリアの通貨でメディチ家にお金を預けて、イングランドにあるメディチ家の支店からイングランドの通貨でお金を引き出せるという為替システムを構築したのだ(これは日本の三井家とも近似するシステムである)。
クレカの国際ブランドはいくつかあるが、最もシェアが大きいのがVISAである。1950年代に消費社会が到来し、割賦販売等も広がり消費熱を加速させる。そうした中で、バンク・オブ・アメリカ(よく間違える人がいるが中央銀行ではない)が莫大な投資でクレジットカードネットワークを構築した。これがVISAだという。また、アメリカン・エキスプレスも有名だが、同社はトラベラーズチェックを個人旅行客にまで裾野を広げ、損失補償などの手厚いサービスでシェアを広げたという。現在ではトラベラーズチェックは役目を終えて発行されていないが、クレジットカードのアメックスはステータス性のあるカードとして君臨している。
日本において最大の持続的なビジネスモデルを築いたのは三井越後屋だそうだ(百貨店の三越はこれの後継である)。担当を分けて専門性を高めたり、訪問ではなく店頭販売に注力し、定価販売によって買い物をしやすくしつつ、また貸し倒れリスクを回避するために即金払いのみにしたりと当時としてはかなり画期的だったようだ。さらには江戸と大阪では通貨が金と銀だったので送金が大変だった。この金銀の送金を三井家が担う公金為替制を導入し収益源とし、また幕府公認ということで箔もついたという。創業者の三井高利は、後継者争いを避けるために長子相続も分割相続も避けて遺産をそれぞれに割り付けておくことで一族全体に相続し、また遺志をついだ子孫は家訓を定めて一族で事業を引き継ぎ今日まで続く繁栄を築いたという。
この三井越後屋の例もそうだが、日本はやはり江戸時代はかなり先進的だったと思う。例えば、現在の「先物取引」を初めて行ったのは、江戸時代の大阪堂島の米商人であるし、識字率も高く和算も高度に発達し、焼き物の水準も西洋で評判を博するほどだったし、浮世絵をはじめユニークな文化が爛熟していた。1800年頃においても江戸はパリ・ロンドン・北京を上回り世界最大の人口規模だったというと驚くだろうか。
70もあるのでとてもまとめきれないが、思うのは永遠に続くビジネスモデルとは存在しないということだ。栄枯盛衰、諸行無常である。社会・経済の進展にあわせてビジネスモデルを更新していった企業が生き残れる。これは国レベルでみてもそうである。イタリアは中世では欧州で最先端の先進国だったが、現在でG7で最下位である。かつての大国スペインは過去の栄華は見る影もない。覇権国だったイギリスも先行き不安である。現在だと日本は完全にITやAIのビジネスには後れを取りつつあり、対岸の火事ではない。人口減少で国力のシュリンクは仕方がないが、そのインパクトを和らげることはできる。ビジネスモデルの栄枯盛衰を知ることは、今後の日本の企業や産業についての良い視座を与えてくれるだろう。それにしても前書に続き様々な業界のビジネスモデルをコンパクトにまとめあげた著者はすごい。東大理学部卒で仏のINSEADでMBA取得し、ボスコン・アクセンチュアを経てKIT虎ノ門大学院教授である。調べ上げた労力には頭が下がる。
