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「王室」で読み解く世界史
1,836円
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日本には天皇がいる。世界の独立国家のうち、王室を有するのは27の国に過ぎない。国連加盟国の13%に過ぎない。世界に存在する王室から世界を読み解くのが本書である。欧州の王室に関する記述が多く、その後、アジア・中東・アフリカ・アメリカについて駆け足でみていく。
ヨーロッパは「血統」こそが重要であり、ハプスブルク家が良い例だが、政略結婚を繰り返し勢力を拡大した。スペインはもともとハプスブルク家だったが、近親相姦を繰り返して王家が断絶し、フランス系のブルボン家の王朝になって現在も続いている。そのフランスは、フランス革命で王・王妃を、ギロチンにかけて処刑、彼らの子供のルイ17世は名目上は王位を継いだが、幽閉され虐待の挙句に病死した。イタリアはリソルジメントで国家が統一されて王国になったが、1946年の国民投票でファシストに協力して国民の支持を喪失した国王は廃位され、共和制に移行した。スウェーデン・オランダで王室が残っているが、政治的な妥協の産物でしかない。現在のスウェーデン王など、ナポレオン配下の平民・兵卒の成り上がりであり、おまけにスウェーデンとは何の縁もゆかりもない。欧州の王室は、相続争いや土地の奪い合いを制した者の子孫に過ぎない。
日本の天皇は、武家政権が成立したことで政治的実権を奪われたが、その結果、政治的な権威として存続した。島国という地政学的な有利性と、適度に広く豊かな国土ゆえに強国であったがゆえに、他国による侵略を受けずにきたことも幸いした。結果的に現存する王朝としては最も長きにわたる王朝である。天皇は日本国の統合のための記号に過ぎないし、日本国統治の機関に過ぎないが、それと同時に日本国の精神的支柱であることに疑いはない。2000年以上の歴史を有する天皇家を廃して、共和制国家に転換することは国民感情が許さないだろう。
ヨーロッパの王朝は血統が重要だが、アジアの王朝は「易姓革命」を特徴とする。「天命を革む」と書いて「革命」であるが、中国ではある王朝が徳を失ったとき、天が見切りをつけて、王朝が革むのだ。中国では、王朝が幾度も移り変わるが、天が見放した前王朝の正当性はことごとく否定されるために、歴史が改竄される。結局、中国は共産化して、王朝は消え去った。個人的に思うに、習主席は長期政権化し、王朝のようになっているが、長期的には民意を失って易姓革命により、共産政権は滅びるのではないかと思う。
中国の劣化コピーである朝鮮も同じ理屈で、歴史の改竄が行われる。その伝統はいまでも健在で、韓国では大統領が代わるたびに前政権の正当性が否定されるので、国家の方針に一貫性がなく外交及び内政ともに滅茶苦茶になっている。朝鮮にも王はいたが、朝鮮半島は中国からすれば属国というより属地のようなものだった。それゆえ、李氏朝鮮の王は、”陛下”ではなく、格下の”殿下”に過ぎなかった。最近でも、中国政府は、韓国を格下扱いし冷遇しているが(韓国特使が主席との対面の際に下座に座らされる等)、これには歴史的背景があるのだ。一方、ベトナムは適宜、中国の冊封に入りつつも、中国は北朝、ベトナムは南朝として対等を主張した。中国が皇帝を称したので、対等であるベトナムの君主も”皇帝”を称したのは必然だった。しかし、ベトナムは阮朝を最後に王朝は断絶してしまうのだが。
ネパールは「 ネパール王族殺害事件」を機にギャネンドラ国王が即位するも、議会・内閣を停止するなどして政治的に混乱し、2008年に王は退位し連邦制に移行した。ブータンは幸せの国のイメージがあるが、犯罪率は高いし、アルコール中毒も多いし、民族浄化の一環で大量の難民を発生させている。幸福な国とのイメージとは裏腹に、ブータンは混迷しているのが実際である。日本人は天皇家のイメージゆえに、君主制は平和で繁栄の印象が強いが、然様の国は数少ない。欧州では他国の王朝が自国の王朝を乗っ取ることはよくある話だし、君主が暴走して支持を得られずに廃位されることも多い。アフリカでは王朝は列強に蹂躙された結果、現存する王朝は3つのみであり、南米にあった強国もスペイン・ポルトガルに滅ぼされて植民地化されて滅茶苦茶になった。その点、世界でも有数の治安が良く文化水準の高い経済大国であり、2000年にも渡り1つの王朝が連綿と続く日本は極めて稀有な国である。日本人は国際関係に疎いといわれるが、日本は良い意味で標準的な国ではないと知ることが、国際情勢を理解する一歩だろう。
王朝という切り口から世界史をみる良書だった。若干、記述に偏りがあるが、一読の価値はあると思う。

