気になっていた作品「マンチャスター・バイ・ザ・シー」を鑑賞。アカデミー賞で主演男優賞・脚本賞を受賞している。マンチェスターというのでイギリスかと思ったら、アメリカのマサチューセッツ州らしい。おまけに「マンチェスター・バイ・ザ・シー」という都市名だという。
ボストンに住む一匹狼のリー。アパートメントの便利屋として生計を立てている。そんな彼のところに、兄の訃報が届く。実家のあるマンチェスター・バイ・ザ・シーに戻った彼は、甥っ子の後見人になったことを知る。兄を失った悲しみにくれながら、甥っ子と今後について話し合っていく。彼の兄は、リーに後見人としてこの町に住むことを望んでいたが、リーは頑なに拒む。どうしてもこの町にいたくない理由があるのだ・・・。心を閉ざし、過去の悲劇を背負いながら生きる主人公を描いた上質なヒューマンドラマである。
評判にたがわず、名作である。まず、マンチェスター・バイ・ザ・シーの凍てつく冬の風景が美しい。寒々しい海と空とカモメの群れ。あたかも主人公の内面を映しているようである。そこに悲しげに流れる美しい音楽はアメリカ映画らしからぬ情緒を漂わせる。
それにしてもリーの描き方がとてもうまい。彼の甥っ子は二股をかけてアイスホッケーの選手で喧嘩っ早い。おそらくリーも昔はそうだったのだろう。しかし、リーは過去の出来事故にふさぎ込んで人当たりも悪くなっている。バーでいきなり喧嘩し始めたり、窓ガラスを割ってみたりと、自傷してしまう。変えようもない過去に絶望し、そこから後悔・怒りなどの感情が湧き出て、衝動的に粗暴な行動に出てしまうのだろう。映画を通して、特にリーには特に大きな救いはない。人生なんてそんなものなのだ。変えられない過去に囚われつつも生きていかなければならないのだ。
若干気になるのはキリスト教の要素が散りばめられているところだ。リーが町に戻ると教会が目に留まる。ジョーの元妻はキリスト教徒だが、リーと甥っ子はその件で、俺たちもキリスト教徒だろという会話をしたりする。ここのキリスト教的な要素をなぜあえて混ぜているのかは良くわからないが、意味深である。リーの人間的な弱さを示したいのだろうか。神は、人に乗り換えられる試練しか課さないという。リーにとってはそれが過去の悲劇だったということか。
どうでもいいが、この映画を観て次の短歌を思い出した。
白鳥は 悲しからずや 空の青 海の青にも 染まずただよう
-- 若山 牧水