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本日は上野のデトロイト美術館展に行ってきた。デトロイト市は財政破綻した都市であるが、音声ガイドの原田マハ氏が指摘していたが、次々に洒落た店がオープンし、街は活気を取り戻しつつあるという。デトロイト美術館は、世界中からの寄付により、美術品は一点も失われていないという。

 

美術展は、印象派、ポスト印象派、20世紀ドイツ絵画、20世紀フランス絵画の4部構成。印象派だと、やはりモネが好きだ。モネの「グラジオラス」は、光が見事に描写されていて、色彩豊かで暖かさまで伝わってくるようである。ポスト印象派で衝撃を受けたのは日本初公開のゴッホの「オワーズ川の岸辺」である。寒色の色使いと、荒らしいタッチが精神的不安定さを感じるーこの絵を描いて数週間後に自殺したという。ゴッホの精神状態がよく出ている。

 

20世紀ドイツ絵画は正直好きになれない。ナチスを生み出した不穏な雰囲気が絵画の色彩に出ているようで、全体的にほの暗いードイツ表現主義はナチスに退廃芸術との烙印を押されて迫害される。一方で、20世紀のフランス絵画では、私の好きなモディリアーニがあり嬉しかった。デフォルメされた人物もどこか人間の内面を描いているようで個人的に興味惹かれるのである。

 

コンパクトな美術展なので1時間ほどで鑑賞できる。ゴッホの自画像など見所が豊富なのでおすすめである。おまけに月・火は絵の写真が撮れる。欧米の美術館は基本的に毎日撮影できるが、日本の美術館は手狭なので仕方がないか・・・。

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美術展を観たのち、表参道に移動し、スパイラルホールで難民映画祭の「L. セバスチャン・サルガド / 地球へのラブレター」を鑑賞。サルガドという著名な写真家のドキュメンタリーである。ヴェンダース監督だけあって、映画自体も上質に仕上げられているが、それにも増してサルガド氏に感銘を覚えた。

 

フォトグラファーは語源のギリシャ語、光で描く人という意味だそうだ。サルガドは、地球の様々な極限的な場面に、もはや当事者のように寄り添い、地球で起きている現実に向き合う。映画中に映し出される彼の写真は見事だが、そんなものは気にならないぐらいに写真の迫真性に驚嘆を覚えた。写真に幾重にも織り込まれた現実の重みに圧倒される。しかし、サルガド氏は、ルワンダ虐殺の撮影をとおし彼は精神的に病んでしまう。山のような遺体を運ぶ重機の写真が、重い現実を観客につきつける。彼は故郷のブラジルに帰り、枯れたよう山々を再生させるべく植林に励み、ついに森は復活するのだった・・・。旅人として様々な写真を撮り続けたサルガド氏には畏敬の念を覚える。インスタグラムを開けば写真の洪水だが、サルガド氏のような写真の価値は揺るぎなく輝き続ける。偉大な写真家の存在を世に知らしめる本作は非常に意義深い。

 

どうでもいいが、「地球へのラブレター」という無意味な副題は剥ぎ取ったほうがいい。本ドキュメンタリーの原題は「The Salt of the Earth」(地の塩)である。これは映画にも出てくるが、聖書の言葉である。塩は調味料だけではなく、腐敗を防ぐ効果がある。神の信徒は、物事に意味を与え、世の腐敗を防ぐように努めるべきというイエスの教えである。ルワンダ虐殺に絶望したが、一方で自然の再生力をとおし希望を見出したサルガドの生き方をよく表現している。地球へのラブレターでは、無内容で意味不明だ。