マリリン・ボス・サバントは米国のコラムニストであり、また彼女はギネスブックで「世界で最も知能指数(IQ)が高い女性」として認定されている。いくつかのIQテストで結果が出ており、ギネスブックでは2つのIQが引用されているが、結局認定にはIQ 228が採用されている。しかし、このスコアは現代において一般的な偏差IQではない。これは古典的な「比率IQ」で、「比率IQ=精神年齢÷生活年齢×100」の式で求まる。これはあくまで発達の速度を示すに過ぎないスコアである。精神年齢の成長が速い早熟な子どもは100以上となり、例えば、10歳の子どもが20歳の精神年齢となれば、IQ 200ということになる。日本語版wikiは情報量が少なく役に立たないので、英語版wikiをみたが、スタンフォードビネーテストで、10歳6か月の時に、精神年齢が22歳11か月だったらしく、マリリンのIQはそこから算出されたようである。じゃ、彼女は70近いから、比率IQ 200だとすると、精神年齢は驚異の140歳!?ってことになりそうだが、そういうわけではない。この比率IQが検査が有効なのは、子どもだけである。ビネー式はそもそも精神遅滞の子供の識別に開発されたので、比率IQの高さは賢さを示しているわけではない。ちなみに、開発者はIQ 170以上は推定することを認めていないので、彼女のIQはルールに則っていないスコアだという。


もう1つ、ギネスが引用したIQはMega Societyが実施した、IQ テストである。1980年代に受けたこのテストで、彼女はIQ 186(標準偏差16)と測定された。標準偏差16とつくのは、先ほどの比率IQではなく、このスコアが「偏差IQ」であることを示す。偏差IQとは、母数のうちで自身がどの程度にいるのかを示すスコアで、例えば、標準偏差15でIQ 130は、母数の上位2%に位置することになる(日本の学力偏差値と同じ;日本の場合は平均が50になるようになっている)。ちなみに、Mega Scocietyのテストは、難問を48問解き、解けた問題数に応じてIQを推定するというもの。High range IQ test(高い知能指数を推定できるというIQテスト)はこうして算出されている(現代のIQテストでは最高でも160~170程度しか推定できない)。しかし、こうしたテストは、偏ったサンプルで推定しており、基本的な統計のルールを守っておらず、IQの推定値は意味をなさない


おまけにいうと、現代の知能観では、複数の知能因子から「一般知能g」が成立すると考えられている。だから、日本で医療機関で受けるWAISなどの知能検査は、記憶力や推理力、言語理解力などを網羅的に測定して、全検査IQを割り出す。Mega Scocietyのような推理問題だけで、知性を測定するのは現代的な知能観からすると極めてナンセンスである。だが、難問を48問中46問も解いたことは事実で、彼女が法則を見抜く能力にかけて、ずば抜けて優秀な頭脳を持っていることにはかわりがない。モンティホール問題を正答するあたり、天才的である。サバントも、知性は様々な要素が関与しているから、それを測定しようとする試みは無意味だと指摘している。彼女のような高度な知性を、数値化しようとする試み自体が愚かしい行為なのだろう。彼女はワシントン大学セントルイスで哲学を専攻していたが、家庭の事情で中退している。彼女が数学を大学で専攻していたら、いくつかの数学の難問も解かれただろうかと想像してしまうが、コラムニストで世の悩みに答えている彼女にそんなことを求めるのは野暮というものだろうか。