正月早々、こんな記事で申し訳ないが、Yahooニュースで「虐待23年連続増、初の7万件突破」の記事が気になった(*)。これは児童虐待の相談件数が増加し続け、7万件を突破したというニュースである。産経新聞の記事であるが、この記事を読んで、また保守派が昔は良かったとか、家族が崩壊とか言い出しそうなので、事実を書いておく。

* http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150101-00000037-san-soci


まず、相談件数をもって児童虐待が増加しているということは出来ない。単に児童虐待への社会的認知度の向上で、従来は通報されなかったような軽微な児童虐待も通報されるようになり、暗数が顕在化しただけの可能性があるからである。そもそも平成12年に児童虐待防止法が立法されるまで、ネグレクトだとかは法律上は児童虐待ではなかった。こういう場合、暗数があまりない死亡者数をみるのが正確である。児童虐待で死亡する児童を警察庁の統計からグラフ化すると次になるが、ここ10年、緩やかに減少傾向なのが分かる。


注) 縦軸は人数、データは警察庁。無理心中・出産直後の遺棄は含まず。


「いや虐待じゃなくても、最近は変な事件も多いし」という人もいるかもしれない。しかし、現在の子どもたちはそんなに危険な目に合っているのだろうか。小学生以下の者が主な被害者となる刑法犯の認知件数をグラフ化すると綺麗に減少傾向を示している。


注) 縦軸は件数、データは警察庁。


日本の治安は歴史上かつてないほどに良く、児童虐待で殺される子どもも減っている。ではなぜ、児童虐待が増加しているなどというニュースがある程度のリアリティを伴って拡散されるのだろう。内田良の論稿(**)がよくまとまっているが、児童虐待が減少し、安全安心な社会になってきているからである。健全で良い社会になっているからこそ、虐待などの異常性がクローズアップされるのである。児童虐待が減るほどに、それが騒ぎ立てられるというパラドックスなのである。


** 内田良「児童虐待の発生件数をめぐるパラドクス」『愛知教育大学教育実践総合センター紀要』第12号, pp.269-277, 2009年
URL:
http://repository.aichi-edu.ac.jp/dspace/bitstream/10424/1910/1/jissenkiyo12269277.pdf