心理学の概説書。遺伝、意識、記憶など心理学の先行研究を分かりやすく説明している。知った話が多かったが、平易な記述ながら先行研究の紹介も豊富で勉強になった。カーネマンが心理学と経済学を融合した理論でノーベル賞を受賞して、心理学への注目が集まっているので、社会科学を学ぶ学生もある程度の心理学の基礎知識は必要である。
興味深かったのは、知能の遺伝性の話。遺伝説と環境説と対立していたが、「一卵性双生児」の調査で、遺伝性が強いことが分かっているそうだ。一卵性双生児は遺伝子が完全に一致している。そのうち養子に出された子供など、遺伝子は同じだが、環境が異なるペアなどを調査。彼らへの長期の調査で判明したのは、幼い時は環境の影響が強いが、20歳にもなると環境の影響は消滅してしまうという点だ。成長するにしたがって遺伝的な要素が強くなるのだ。その関連で、子育ての影響の部分もおもしろかった。子育てによって子供の性格にどの程度の影響があるのかという話だが、ほとんどなく、遺伝的な要素が強いという。
あとは、ミルグラム実験(アイヒマン実験)。政治学などでも耳にする実験。これは被験者に教師役になってもらい、生徒役(仕掛け人)に問題を解かせ、生徒が間違えたら、ボタンを押して、第三者(仕掛け人)に電気ショックを流すというもの。電圧は徐々に大きくなっていき、致死レベルのショックまで加える設定にしてある;もちろん、実際には電気は流れておらず演技。教師役の被験者は途中で心配になるが、続けるように指示される。実験前の予想では、致死レベルまでボタンを押せる人はいないと予想していたが、半数以上の人が指示されるままにボタンを押し続けた。なぜアイヒマン実験というかというと、アウシュビッツのユダヤ人虐殺で重要な役割を担っていたアイヒマンの名にちなむ。彼は悪魔と言われたが、実際には凡庸な男で、彼の裁判を観たH.アーレントも「ただの役人に過ぎない」と書いている。人は指示されると、残虐なこともこなしてしまうのだ。アーレントのいうように「悪は凡庸」なのだ。ちなみに、これに関連する実験として「スタンフォード監獄実験」がある;だいぶ脚色されて結末も変わっているが映画化もされている(独映画「エス」)。
心理学に興味があれば、おすすめの一冊。


