新司法試験は評判が悪い。もはや制度も崩壊が近いといわれる。しかし、旧司法試験時代だって何年も司法試験に落ちて悲惨だったという反論もあるようだ。たしかに、旧司法試験時代には何回も落ちてやっと司法試験に合格したという苦労人も多い。たしかに合格率だけでみれば現行の方が楽だ。だが、個人的意見だが、新司法試験は旧司法試験よりも厳しいと思う。
新司法試験の合格者平均年齢は平成20年28.98歳、平成21年28.84歳、平成22年29.07歳、平成23年28.50歳。旧司法試験時代とあまり変わっていない。しかも司法修習の給費制は廃止されている。しかも、旧司法試験時代は働きながら司法試験を目指し合格も可能だったし、実際にそういう人もいた。しかし、現行の制度だと法科大学院修了という要件があるために実質的に働きながら司法試験を目指すのは金銭的な意味で厳しい。これは新卒者も同様で旧司法試験の制度であれば、大卒後は生活費+予備校代だけで済んだ。しかし、今では法科大学院の学費も負担しなければならない。法科大学院入学の負担も重く、適性試験の費用・大学院の受験料などで十数万~数十万円に達する。しかも、そこまで費用をかけても司法試験の合格率は23.5%(H18年以降、合格率は一度も上昇することなく低下の一途)。なんとか合格しても弁護士の就職難と、年収低下が起きている。弁護士の年収は低下しているが、まだ高給だという意見もあるようだが、今後も2000人合格が続くのであれば年収低下に歯止めがかからない。人生は長い。30歳ぐらいで登録して60歳ぐらいまで働くとして30年は少なくとも働く。このまま年収低下が続くのだとすれば、弁護士はあまりに不安定な職種だ。しかも、2040年には日本の人口は1億を切るとも予測されていて、市場は縮減する一方だ。新司法試験と旧司法試験を比較すると、勉強する期間は同じなのに、かかる費用は増え、リターンは減っている。旧司法試験時代より経済的な意味で厳しさは増しているといえよう。
弁護士が増加すれば法曹市場は拡大するという予測もあったが見事に外れた。日弁連の調査(2011年3月発行「法曹人口政策に関する緊急提言-関連資料」)だと、企業のうち97%が弁護士の採用に消極的。というのも、現在の法務部で間に合っており、問題があれば顧問弁護士に相談するので、あえてコストをかけて社内弁護士を雇う必要がないというのだ。以前テレビで、企業弁護士になった人の話をみたが、収入は普通の大学院卒と同じらしい(わざわざ数年と多額の費用をかけても普通の院卒と同じでは割に合わない)。地方自治体も今後弁護士を採用する予定があるのかという問いに94.5%が「ない」と回答。国選弁護人の契約弁護士も4年前の1.8倍になり、2007年には一人あたり5.9件あった事件数は、2010年に3.6件にまで下落。少し前は過払い金バブルと言われたが、立法的に解決されたので今後は収束に向かう。ゼロワン地域も解消したし、もはやなぜこれ以上弁護士を増やすのか疑問だ。しかも、日本には隣接法曹がおり、弁理士・司法書士も一定範囲で訴訟上の権限が付与されており、弁護士の仕事は微量とはいえ減っている。
司法修習生の半数は借金をしており、司法修習の給費制廃止でもう300万円程度の借金が加わる。合格するかどうかも分からない試験のために数年と多額の費用をかけ、しかも合格してもサラリーマン+α程度の年収しか見込めないのであれば、こんな試験を誰が目指すのだろうか。旧司法試験であれば働きながら目指すことも可能で、合格すれば司法修習生として一応の収入があり、修習所卒業後の就職も安定していた。旧司法試験時代は合格者が500人と少なく批判もあったそうだが、なら旧司法試験制度のまま合格者を増やせば良かったのではないか。法科大学院なんか設置しなければ無駄な補助金を出す必要もなく、合格者が増えたとしても給費制を維持できたのではないか。
それより問題は三振者の存在だ。すでに1000人を超える三振者が出ている。旧司法試験時代も学卒の新卒採用を捨てて何年も勉強して結局受からないというような人もいた。しかし、その人には猛勉強して大学在学中に司法試験に合格するという選択肢や、新卒採用されて働きながら司法試験を目指すという選択肢などもあった。そうであるのに、あえてそれらを選択しなかったのであれば、新卒採用を捨てて勉強し続けるというのは、自己責任で片付けられよう。しかし、新司法試験はそうはいかない。法科大学院修了という要件、院修了後5年以内に3回という制限のせいで働きながら目指すなどの選択肢がない。法科大学院のせいで学卒での採用を捨てなければならず、法科大学院のために多額の費用を強いられるのは自己責任ではない。制度に問題があるのだ。
法科大学院の入学者はここ数年は毎年10%以上の減少。今年の入学者が3150人だが、このままの減少率だとあと3~4年で入学者が2000人を切る。司法試験は2000人合格なのに、法科大学院入学者が2000人を下回るという意味不明な状態に陥る可能性がある。今後数年以内に、2000人合格見直し、三振制の廃止、司法試験の受験資格から法科大学院修了の要件を外す、予備試験合格者を大幅に増やすなどの措置が迫られる。甘い制度設計のつけは誰がとるのだろうか。
