弁護士になるのが夢でしたが、よくよく考えた結果、司法試験を諦めることにした。今後は公務員を目指す。公務員試験でも法律の勉強は必要なので今までの勉強は無駄ではなく、法律の勉強を通して法的思考を養えたのは大きな財産だ。公務員は身分が安定してるし、公共のために働くという自分の夢も叶うのでベストの選択だと思っている。ちなみに、司法試験を諦める最大の理由は、法律業界の不安要素の多さ。

 先月の終わりに明治学院大学法科大学院が募集停止を発表し、募集停止はこれで3校目。数人しか入学のない法科大学院は他にも数校あるが、それらも募集停止が時間の問題だろう。旧帝国大の東北大も定員割れしていて、新潟大・鹿児島大なども大幅な定員割れ。法科大学院入学に必要な適性試験の志願者数も激減していて、数年度には全入になる勢い。なお、4分の3の法科大学院が赤字経営だという。もはや法科大学院制度は崩壊しかかっているのである。今後も存続されるかどうかすら不透明な法科大学院に進学する勇気は私にはない。

 法科大学院の不安要素の1つは、留年の多さだ(例えば、学習院大は既修・未修コースとも標準年数で修了する人の割合が50%を割っている。法科大学院全体でも平均で4人に1人以上が留年している)。法科大学院の学費は高いので1年でも卒業が伸びるのは経済的な負担が重い。おまけに無事に法科大学院を留年しないで修了したとしても司法試験の合格率は前年度で23.5%。10人受験して7人は確実に落ちる。ここでなんとか合格したとしても、司法修習所の卒業試験がある。ここで不合格となると法曹になれないが、ここの不合格率も年々上昇している。なお司法修習所の間はバイトが出来ないので親の経済的支援がなければ借金するしかない。司法修習生への調査によると、半数以上が借金を抱えていて、借金の額は350万円程度だという(司法修習の給費制廃止で借金はかさむことになる;司法修習生を多重債務者に追い込んで何をしようというのか)。ここの司法修習所卒業試験という関門もクリアしても、就職難が待ち構えている。去年、司法試験合格者のうち任官者を除いて弁護士登録しなかったのが2割に上るという;弁護士登録をせずに企業にいった人もいるだろうがそういう人は少数派だろう。こう考えると法科大学院に進学しても、留年せずに一発で司法試験合格して弁護士になる人は全体ではかなり少ないだろう。

 さらに弁護士になったあとも不安要素がある。年収は低下の一途で新米弁護士の年収は600万円代が昔は多かったそうだが、今最も多いのが年収500万円代だというデータもある。今後も弁護士増加が続けば年収の低下に歯止めがかからないだろう。いまどき年収500万あれば十分というが、弁護士の場合は昇給も不確実で、福利厚生や退職金・年金も大規模な事務所でない限り期待できない。しかも弁護士登録料などの経費もかかる。おまけに弁護士は業務で失敗すると懲戒として弁護士資格剥奪されるリスクもある。法科大学院に学費を払い、さらに働かずに数年間を勉強にあてたとすると機会費用も多額だ。新卒採用を捨ててまで弁護士になるリターンはあるのか。しかも、どっかで失敗すれば弁護士になれない。一部のエリート弁護士はかなり稼いでいるようだが、稼いでいない弁護士のほうが圧倒的に多い。司法書士なども業務拡大しており、それらとの業務争いもあるという。もはや弁護士はスーパーハイリスク、ローリターンな職業といえるだろう。一部の儲かっている弁護士をみて弁護士は儲かると思い込むのは危険だ。ナシーム・タレブのいう「生存バイアス」からくる錯覚である。

 以上が私が司法試験から撤退する理由だ。ただ、弁護士の人数を増やすこと自体、法科大学院という存在自体は私は悪いとは思っていない。問題は弁護士を増やしすぎたことと、司法試験の受験に法科大学院修了という要件があることだ。旧司法試験のままで問題などを改良し、合格者を500人から1000人程度に増やせばよかったのではないか。法科大学院の修了を受験資格とするのではなく、法実務を勉強できる場所として数を絞って設置すれば良かったのではないか。

 私は司法試験から撤退するが、志あってどうしても弁護士を目指すという方にはぜひ頑張ってもらいたい。私は大学院で公共政策を学んで堅実に公務員を目指す道を行きます。

---(反論について)---
 法科大学院の学費について、奨学金で無償になるケースがあるという反論があった。確かに一部の優秀な学生は学費免除という制度もある。しかし、学費免除されるのは一部の学生だ。しかも、法科大学院はボランティアで大学院を経営しているわけではない。そもそも志願者が激減し、大学院の8割が定員割れする中、学費免除などができるのは一部の法科大学院だけで、小規模な法科大学院の場合、赤字が拡大するだけだ。どちらにせよ志願者激減で法科大学院制度は今後数年のうちに改革が迫られることは明白だ。
 5年目で年収1000万円というデータをもって反論する人がいるが、それは法務省などが某フォーラムの際に調査したものだろう。たしかこれは任意の回答で回収率はたった1割程度。ほとんど信憑性がない。たしかに年数が経るごとに年収は上がる傾向はあるが、というのも、生計の立たない弁護士は会員費を払えず登録を取り消すので、年数を経るごとに低年収の弁護士が消えるため年収が押しあがっているということも考えられる。なお政府は上記の法務省のデータをもって、新米弁護士も稼げでいると主張して、司法修習生の給付制を廃止した。そもそも司法試験に合格して2割が弁護士登録できない状況が異常だ。なお、厚生労働省の調査(賃金構造基本統計調査)だと、平成23年の10人以上の法律事務所勤務の弁護士の年収は659万円に過ぎない。弁護士の半数は個人事務所だが、弁護士激増の中、彼らの経営は不安定というのはいうに及ばない。数百万円かけて弁護士になるリターンとしては極めて少ない。
 ギリシャを例に公務員も安泰ではないという反論もあるが、ギリシャと日本では全く経済規模が異なる。世界3位の日本がデフォルトなんて危機的状況になったら公務員より民間の方が圧倒的に危ない。デフォルトの危機になろうが、行政は機能しないといけないので公務員をリストラするにしても必要最小限になる。だいたい日本の公務員比率は5%程度で削減するほどいない。アメリカ・イギリス・カナダなどが15%程度。フランス・フィンランドは20%を超す。スウェーデン・ノルウェーは30%近い。ギリシャは25~30%が公務員で、労働者のうち5%しか公務員がいない日本と比較するのはおかしい。今後も公務員が安泰とは限らないという人もいるが、今後15年で弁護士の数が2倍になる弁護士業界よりははるかに安定している。弁護士が2倍になっても市場が15年で2倍になることはないので弁護士業界が苦境なことには変わりがない。