「アジアは近代資本主義を超える」という本を読みました。著者は、ミスター円との異名を持つ榊原英資さん。東京大を経て大蔵省に入省し、ミシガン大で経済学の博士号取得しておられます。国際通貨基金や埼玉大などに出向経験があり、大臣官房審議官や財務官などを歴任。退官後は慶應義塾大・早稲田大などで教鞭をとり、現在は青山学院大の特別招聘教授だそうです。

[主な内容]
■再びアジアへ
この本によると、西欧の近代資本主義も一つの文明に過ぎず、産業革命をきっかけに一時期に繁栄したに過ぎないというのです。アジアが没落したのは1820年からであり、それ以前は、GDP・人口のシェアにおいてはアジアが圧倒的だったのです。そして、最近になり中国・インドが再興し、再び世界経済の中心はアジアへと移行していると指摘しています。これからは欧米中心の経済から脱却し、アジアは経済統合がさらに進むだろうとしています。

■日本について
19世紀以降、西欧の列強がアジアに迫り、日本は自ら明治維新を起こし近代化することを余儀なくされます。明治維新は文化革命であり、これによって江戸徳川の文明は滅びました。その後、日本は世界大戦へと躍進しましたが敗戦。戦後に民主主義化され、再び近代化されました。日本は二度も表面的な近代化をしたのです。その結果、文化の空洞化が生じ、ポストモダンへの移行が困難になっていると指摘しています。これからは理念化された西欧と比較するのではなく、日本・アジアを西欧と相対化することが必要だとしています。

[感想]
榊原さんは経済学者なのですが、日本の文化などにも触れていて意外でした。近代資本主義とは何か、そしてそれにより日本はどう変化したのかがよく分かります。インド・中国・ASEANについても分析しています。アメリカ覇権の崩壊が予測され、中国・インドの躍進が濃厚な今日。これからの世界で日本はどうすべきか。経済だけではなく、我々日本人のメンタリティーなども考えていかなければならない、と榊原氏は言いたいのでしょう。
ただ、他書からの引用が多いのがやや気になります...。

■蛇足
ちなみに、榊原氏はアジアが1820年以前は世界経済の中心だったと書く際にアンガス・マディソンの統計を引用していますが、彼の著者は興味深い。同氏の著書によると、過去2000年のうち約1800年間にわたりGDPトップの国はどこかというと、実は中国(あくまで推定)。1820年当時も、実質GDPで中国が1位で、当時のアメリカは日本の6割程度のGDPしかない国でした。アメリカが躍進するのは、20世紀に入ってからです。
ちなみに、統計つながりで、西暦1100年の都市人口ランキングをみてみると、1位開封 2位コンスタンティノープル 3位平安京(*)。1800年の人口の多い都市トップ10をみると、4位江戸 9位大阪 10位京都と、およそ3分の1が日本の都市でした(*)。1950年の時点では、日本の人口は世界5位(**)。日本って意外に人口の多い国なんですよね。
ちなみに、紀元前0年の世界人口は2~3億、1800年の世界人口が9~10億。現在、世界人口が70億に迫っていますが、過去の世界人口をみると、人口爆発は本当にここ半世紀の出来事なんですよね。
統計で見てみると、意外な発見があるものですね。

=脚注=
(*) Tertius Chandler, Four Thousand Years of Urban Grwoth, An Historical Census (1987)
(**) UN, World Population Prospects: The 2008 Revision

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経済統計で見る世界経済2000年史/アンガス・マディソン

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