えんぎり2 |  ジルコニア

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イラストやら漫画やら小説をまったりと載せていくつもりです。

ごゆるりとお過ごし下さいませ

えんぎり2


八城は可菜に話のネタに悩ませず、会話をリードしてくれた。
さらに嬉しいことに、可菜の話を焦れることなく聞いてくれた。
話の速度が遅いとはっきり言われたことのある可菜はとても気が楽になった。
来て良かったとちょうど思いはじめた時だった。
「八城ぉ~」
ゲームに興じる中で一際目立っていた、顔立ちのはっきりした青年がこちらに手を振っていた。
「彼女がお前に興味あるんだと」と、隣の女の子を不躾に指さした。
「ちょっと辞めてよ。恥ずかしい」

と青年の隣で顔を赤らめていたのは、可菜の良く知る先輩だった。
四月から、可菜含め一回生を気にかけてくれていた。目立つタイプではないが、綺麗な人だった。
八城が苦笑いしてグラスで口を塞ぐ。
「お前もこっち来いよ」
青年はちらりと可菜も見やり、
「吉原さんもおいでよ」
鮮やかな笑みだったが、女の子対象の笑みと明らかな柔らかさは可菜には縁のなかったもので尻込みしてしまう。
名前を覚えられていたことにも、喜ぶよりも感心してしまう。
八城を伺うと、本当にこういう場が苦手といった顔をしていた。
「先輩、勘弁して下さいよ」
声音も、明らかに弱っていた。
何か口を挟むべきかと可菜が迷ったちょうどその時、一瞬甘い匂いが通り過ぎた。
「またまた。八城くん、モテるでしょ~」
ワンピースが八城を覗き込んでいた。八城を挟みながらも、香水の香が漂ってくる。
「吉原とばっかじゃなくて、私とも話そうよ」
吉原、と呼び捨てにされて、やっと彼女が先輩の神奈川だと気が付いた。
サークルでの彼女は、いつもジャージに素顔だった。

まるで別人の彼女を八城の肩越しについまじまじと見つめてしまった。そういえば香水の香りは変わらない、と可菜は面食らいながら頷く。
「はぁ…」八城も、突然のアプローチに驚いているのか、免疫がないのか、神奈川をぽかんと見つめている。

八城の隣にぴったりと座り込んだ彼女は、声を抑えることなく可菜にこう言った。
「あそこの人と話してきたら? この中じゃお似合いだと思うな」
どことなく刺のある声音にむっとしながら、つられて彼女の示すテーブルの端を見てしまう。
そこには、黒いシャツに黒髪の男の人が一人ぽつんと座っていた。
最初に自己紹介したが、可菜は全く覚えていなかった。
居心地悪く感じている様子は彼に微塵もない。元々一人で飲んでいるかのように周りに無関心だ。自分にはとうてい出来ない、と可菜は思う。
「八城くん、確か二回生だったよね。あたしも二回」
神奈川が身を乗り出して話し出す。
可菜はカクテルを飲み干して、目をそらした。
そのままメニューに目を落とした。
同学年共通のネタで話し出す二人に可菜は端からついていけない。

また、神奈川を差し置いて、八城に話を振ることも出来ない。
暗く焦る気持ちが加菜に蘇った。


「おばQだよ~」


脳天気な声に可菜は顔をあげた。
香屋だ。聞き間違えるわけがない。

辺りを見回すと、やはり、というかなぜかK大との合コンに、彼が混じっていた。
男子はK大で、女子はT大だったはずだ。
(まさか、香屋くん実は女…?。いや、にしては周りにはちゃんと女の子いるから、男?)
最初に顔を合わせて自己紹介した時には彼はいなかったはずだ。
が、確かに、香屋が女の子に挟まれて座っている。
「香屋くん、可愛い~。こんなストラップ好きなの」
「愛嬌あるのが香屋くんそっくり」
「ぽいよね」
いつもの人当たりの良い笑顔に安心する。
(話し掛けてみようかなぁ)
と微かにテーブルに乗り出そうと肘をつく。
「友恵さんも真夏さんこそ、愛嬌あって可愛いけどなぁ」
「も~やだ~」
地声より明らかに一オクターブ上げた声がわんわんと可菜の周りに蘇ってきた。
嬉しそうに加屋が目を細めている。やっぱり加屋も男の子なんだな、と思ってしまう。
隣の八城を伺うとまだ神奈川と話している。
隣にいるのに、入り込みにくい。会話に割り込む図々しさも能力も可菜にはないけれど。
(う、トイレ……行きたい)
八城と話していたおかげで、あまり飲みはしなかったが冷房が生理現象を呼び起こした。
(でも)
今席を立って、戻る勇気は出ない気がした。
八城はその間に移動してしまうかもしれない。
(我慢しよう)
料理はもう出てこないし、グラスも空。飲むフリさえ出来ない。
最後の手段と、可菜は携帯を取り出した。あてもなくサイトを巡った。
(ああ、もう。こうしてたら余計、話しづらいじゃない)

やっとお開きとなって、それぞれ好き勝手に分かれだす中、可菜は目立たぬように後方を歩いていた。

「途中まで帰ろうか」
「トモヤ先輩」

いうなり八城は駅の方へ歩き出した。

「遅くなって、家の人大丈夫?」
「はい」
「楽しかった?」「えーと……」

正直に返事に困る可菜を見て、八城は吹き出した。それが一番自然な笑顔だと可菜は感じた。
「なんかついていけないテンションだったな。特にあの神奈川さん? 俺喰われるかと思ったよ」
「ははは。そうですね」
まんざらでもなさそうでしたよ。浮かんだ科白に可菜自身、どきりとする。
曖昧に笑いながら可菜は醜い考えを振り払う。今日会ったばかりの八城に、どうして嫌味が浮かんでしまうのか、分からない。

地下鉄のホームで、ついでのように八城が言った。
「あぁ、でも君に会えたのは良かったな」
「…トモヤ先輩?」

「あっそういう意味じゃなくて、うん、同志みたいで……あー、また俺何言ってんだ。
可菜ちゃんってなんか話しやすいからなぁ。つい。」

八城を伺えば、滑り込んできた車両を彼は目で追っていた。

「じゃっ、気をつけてね」
閉まる扉に入り込んだ背中は、車体が動き出して微かにこちらへむきかけた。けれど、そのまま人の影の奧へ入り込んでしまった。
手を振ろうかと片手を胸まで掲げた可菜は顔を赤くさせた。

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毎度お待たせしております。荒樫セイです。
えんぎり2でした。

色々と粗かったですが、ここまで読んで下さり有り難うございます。


今、漫画イラスト描きたい気分です。もやもや。

やはり手描き、になりますが汗せめてスキャナーがあれば……!!