
終戦直後、ソ連軍から邦人居留民4万人を救った駐蒙軍司令官、根本博がまだ中国に滞在していた時の出来事です。
昭和20年8月の終戦後、中国にも米軍が上陸してきましたが、根本に中国人の友人が次のような話を語っていました。
「アメリカの憲兵将校が、酔っ払ったアメリカ兵に説教しているのを、その中国人が聞いたそうだ。
『お前らは勝利に奢(おご)り、そんな醜態を演じているが、あの日本人を見ろ。あの人たちは北京に来て数十年、短くても数年は苦労して財産を築いたんだ。
軍隊が戦争に負けたというだけで、民間人のあの人たちの汗と涙の結晶である財産を奪われ、リュック一つで本国に追い帰されるんだ。
それにもかかわらず、彼らは泣きわめくこともせず、整然と隊列を組んで住みなれた北京の地を去って行くではないか。
恐ろしいのはこの人たちだ。お前たちのように毎日毎晩、酒をくらって酔っ払っていると、そのうちこの人たちに征服されてしまうぞ。
なるほど日本人は戦争には負けたが、女性や子供までが黙々と日本に引き揚げていく姿は、さすがに大国民だ。敬服する。
その人たちがじっと怨念をこらえて日本を再建してみろ。そのときこそ世界の脅威となろう。いいか、お前たちも勝利に奢ることなく、この人たちを直視するんだ。悲しみにじっと耐えている。それがつもりつもって爆発したときが恐ろしい』
と涙を浮かべ、日本人をほめたたえていたという」
アメリカ人が語る引き揚げ日本人の姿は、東日本大震災でも表された通り、現代日本人とも共通する気質を持っています。
民族的特徴は数十年を経ても容易に変わらないようで、興味深い見聞です。
『戦略将軍 根本博』-ある軍司令官の深謀、小松茂朗、光人社、1987年