昭和10年、11年に報知新聞から発行された『日曜報知』の広告を取り上げています。
「全国 巡査 大募集」「巡査志願者大募集中!」
「時局不安、非常時日本の民衆保護者として、目下満州国はじめ、全国各府県 海外植民地 巡査大募集中!
警察官は生活安定し出世の道は有望無限。今の中に早く警察官となれ、将来必ず出世が出来る事うけ合だ!」
警察官の試験のための通信教育の広告です。「海外植民地」・・・時代を感じさせる言葉です。
またうたい文句が現代と比べて生活安定とか出世とか、あからさまに即物的です。今でも公務員は安定的とは言われるけれど、現代ではまず仕事といったらやりがいとか、自己実現性も同時に重視しますよね?
つまり市井の人間はそれだけ生きていくのに精一杯で、自己実現という精神的価値観にまで考慮する余裕がなかったのかもしれません。
【マズローの欲求5段階説】「人間は自己実現に向かって絶えず成長する生きものである」と仮定し、人間の欲求を5段階の階層で理論化したもの。上に行くほど志が高くなる。
心理学で有名な「マズローの欲求5段階説」で見ると、現代日本人は頂点の「自己実現の欲求」まで意識が到達しているけれど、戦前日本人はそこまで至らなかったのではないかと思います、文面から推察して。
「独学でなれる 産婆看護婦」
「婦人もまた自活の道を!」
「この不景気な時には、婦人もまた自活のできるような仕事を覚えておく事が最も必要な事です。
それには男にも劣らぬ収入があり、社会からも尊敬される看護婦か産婆になることが最も良い方法ではないでしょうか?今なら独学で立派に免状が得られます・・・産婆看護婦通信学校」
・・・産婆とか看護婦とか、実習が必須だと思いますが、通教で医療資格が得られるのでしょうか。
ここでのセールストークは、高収入と尊敬される社会的地位にポイントがあります。
前出の「マズローの欲求5段階説」で見ると、「安全の欲求」(経済的安定)と「尊敬欲求」(社会からの尊敬)を強調しているので、頂点の「自己実現性」までには届かない気がします。
昭和10年頃には女性の社会進出が始まっていたのでしょう。それも原因が不景気だったからなのかも。でもまだ自分の適性を熟考するとか、仕事に対するやりがい重視の意識が広告からは見えてこないです。
現代人も収入が少なければやはり困るけれど、同時に自己実現性も大事だという精神的価値観も社会的に共有していると思います。
ところが昭和10年の広告を見ても、その点が見えないのです。マズローの三角形の頂点(精神的価値観)まで至らず、物事の捉え方が即物的に見えます。
これは私自身の意見で内容がちょっと飛躍しているかもしれません。
つまり当時の人々の「お金が欲しい、物が欲しい」という即物的意識が、やはり領土拡張など現物思考となって、植民地獲得競争へと走る一因となったのではないだろうかとも感じます。
日本ならずとも、帝国主義の時代ですから世界的に同様の傾向を持っていたのかもしれません。