ウクライナ情勢・歴史的背景からの解説 【佐藤優 / 後編】 | 太平洋戦争史と心霊世界

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ウクライナ  黒海とロシア、ポーランド等、幾つもの国と国境を接するウクライナ。首都はキエフ。


今回、暫定政権ができた時に、一部の地方ではウクライナ語だけでなくロシア語を公用語にするという法律を(ヤヌコヴィッチ大統領が)作ったがそれを停止した。

 

それは公務員にウクライナ語を喋れということになる。企業の管理部門も同様で、管理職はウクライナ語を喋れないといけない。

 

どういうことかと言うと、西部ウクライナ以外でウクライナ語を常用していない地域においては、ウクライナ語を喋れないから、公務員、企業の幹部はポストを失うことになる。

 

その代わりにウクライナ語を喋ることができる西ウクライナの人達が入ってきて幹部になるわけである。そういう意味で、言語の問題でエリートの入れ替えが行われる。ここが非常に重要なところ。

 

だから西ウクライナを中心とする勢力の人達が今、権力を握ろうとしている。これに関して、ウクライナは全部で西部、中部、東部、南部であるが、それぞれ全部別のファクターとなっている。

 

東部のウクライナでは、住んでいるウクライナ人たちは自分たちがロシア人なのか、ウクライナ人なのか、よく分からない。決めていない。そこにおいては民族意識が未分化となっていて、なおかつ正教徒でロシア語を日常的に話す。

 

そういう所なのでロシアから分離することは絶対にないと、ソ連時代から考えて、軍需産業の最先端の軍需工場、それから宇宙産業の工場があるわけである。

 

すると何が問題になるかというと、ウクライナの新政府はEUに参加し、更に経済だけじゃなく外交・安全保障においても西側と一緒にやる、NATOに入るという事になった場合には、ロシアの最先端軍需技術と宇宙産業の技術が全部アメリカに流出することになる。

 

これにはロシアは全力を挙げて阻止する。だからオリンピックの間があるから、ロシアは国際世論の反応を考えて無理をしないだろうという読みが、西ウクライナの民族主義者の間にあった。

 

裏返して何でオリンピックの閉会式に合わせて、あんなに激しく情勢が悪くなったのかというと、オリンピックの閉会式の後はロシアが秘密警察を使って相当の巻き返しをするのは明白だ。

 

だからその前にヤヌコヴィッチを捕まえて殺してしまわなければならないと、こういう事だった。そうじゃないと殺される、自分たちが。事実ロシアは殺したでしょ?今回のこのやり方で。



ヤヌコーヴィチ 

ヴィクトル・ヤヌコヴィッチ前大統領。


 

権力をとりあえず掌握して、国際社会の関心が集まっているから直接はない。ただ、この後はウクライナの中で大変な綱引きが起きてくると思う。ティモシェンコはその辺の様子を見て、彼女はプーチン大統領とは個人的な信頼チャンネル持っているし、ロシアにも友達多い。

 

今ウクライナ発の情報見ていると、西ウクライナの勢力はティモシェンコ批判をやっている。彼女は腐敗している、ウクライナの代表には相応しくないと。だからティモシェンコが権力を取ることもなかなか難しい状況になってきてるんで、どうなるかよくわからない。



ティモシェンコ 

ユーリヤ・ティモシェンコ


 

さらに日本の報道では全く出てないが、南ウクライナ情勢非常に悪くなっている。これはクリミア半島の問題。クリミア半島はもともとクリミア・タタール人というトルコ系の人達が住んでいた。

 

この人達がナチス・ドイツに協力したという嫌疑を掛けて、スターリンが1944年強制追放して、中央アジアに送ったわけである。そのあとにウクライナ人とロシア人を入植させた。

 

ところがペレストロイカの時に、この追放が間違いだったという事で、クリミアにはタタール人たちが戻ってきた。

 

ウクライナ人・ロシア人の出生率は低い、タタール人の出生率が高いために今大体、4割強がタタール人。残りがウクライナ人、ロシア人半分ずつ。

 

ウクライナ人とロシア人の関係は、そんなに悪くない。タタール人は元々取られた土地を取り返すっていう事で、ウクライナ人、ロシア人と大変なトラブルを起こしている。

 

このタタール人の所にアルカイダと繋がるようなイスラム原理主義過激派の影響が入っている。そうすると、ウクライナの内政状況が混乱した場合に、アルカイダ系のイスラム原理主義過激派の動きがクリミアで広がってくる。

 

クリミアにはロシアの黒海艦隊の基地がセヴァストポリにあり、ウクライナの基地もある。すると武器などが奪取される危険性も出てくる。それでウクライナを巡ってヨーロッパ全域、ロシアにかけての情勢急速に混乱する可能性がある。

 

この状況の中で、アメリカとロシアが後ろで手を打って、ロシアが秘密警察を導入して、相当乱暴な事をやってもとにかく安定を維持する。こういう事をアメリカがどこまで認めるかっていう事のこれから綱引きになってくる。

 

ちなみにヨーロッパの方はEUにウクライナ入れる気はない。ウクライナの経済構造(金融危機)を考えた場合に、これ以上荷物を背負うことはできない。

 

他方ロシアを牽制するっていう観点から、ウクライナを西側に引っ張るっていう様子は示す。こういうゲームをやっている。



バリケードを築くデモ参加者 

ウクライナで、バリケードを築くデモ参加者。


 

その中で短期的にはアメリカとEUがロシアのウクライナ政策に対してクレームをつけてくると思う。そして対ロ牽制の中に日本も参加しろという事も言ってくる。

 

これにもし加わると、チェチェンの時の二の舞になる。ロシアにとってはまさにウクライナが生命線。だから北方領土交渉どころではなくなる、安倍の顔など見たくないという話になる。

 

ただ逆にロシアの立場に全面的に乗って、「これは完全に内政問題でロシア内政干渉するわけなので、ロシアが煮て食おうが焼いて食おうがロシアの勝手です」という形でやると、日本とは共通の価値観ていうものを持てない国ではないかとなる。

 

北方領土問題を解決するという自分の国の独自の国益があり、その国益のためだったら人類普通の共通の価値観ていうものは共有しない。これが靖国問題であるとか、或いは慰安婦問題とかにおける日本独自の立場という事と共通してるんだということになって、西側からスッテンテンに孤立する可能性がある。

 

どちらの選択をするにしても、非常に難しい選択を安倍政権はこの1か月以内位に迫られる。ところがその準備が全くできてない感じがする。いきあたりばったりで対応している感じがするんで、どうなるか、全くよく分からないと思う。

 

ただ私は基本的にはこの件に関しては、よく分からないことにあまり関与しないと。ということは、結果としてウクライナ国民の民意によって決定されることを我々は尊重するんで、いかなる外国も干渉するべきではないという形で、少なくとも欧米の人権干渉から距離を置く。

 

ロシアとの関係においてはウクライナの問題はロシアと話す問題じゃないということで、極力触らないという形で消極的にロシアを支持する。

 

北方領土交渉は北方領土交渉として進めていくっていう方向性が一番いいのではないかと思が、ここのとこは高度な政治判断になるんで何とも言えない。(終)