元外交官で作家、ロシア(ソ連)専門の佐藤優氏がウクライナ問題の核心について語っています。以下、文字起こし記事です。
■2014-02.20 佐藤優 あさラジ(19:38)
ウクライナ。周りをロシア、ベラルーシ、ポーランド、スロバキア、ハンガリーなどに囲まれている。
[ニュース] ウクライナ、EUとの統合をめぐり衝突。26人死亡。政権側、空挺部隊を派遣。
アナウンサー:EUとの統合路線を求めて大規模デモが始まったというのが去年の11月。それに対して反政権デモだということで、デモ隊、治安部隊と衝突し、双方で26人が死亡、800人以上が負傷。
佐藤さん、このウクライナの情勢についてはですね、私らはほんと、見当もつかないんですが。どういう風な国の中の状況になってるんですか?
佐藤:まずこれ、EUの問題、政策の問題としてみると違います。常にあそこは対立があるんです。これは一言で言うとですね、西ウクライナとそれ以外の地方の対立なんです。
かいつまんで言うと、西ウクライナのガリツィア地方って所があるんですね。リボフとかイワノボフランコって町なんですが。ずうっと歴史的に、ロシアやソ連に所属してないんです。
ウクライナ(白)と、西ウクライナのガリツィア地方(黄色)
1945年まで、オーストリア=ハンガリー帝国のハプスブルク帝国からそのあとポーランド領なんです。全くロシア入ってきてないんです。1945年にスターリンたちが戦車で入って来たんです。それで占領しちゃったんです。
それで帝政ロシアの時代、ウクライナの全域ではロシア語を使えってことになってたんで、ウクライナ人って農村部以外ではロシア語使ってたんですね。ほとんどのウクライナ人、ウクライナ語は使えないんですよ。
ところが、このオーストリアの中にあったガリツィア地方は、ウクライナ語で喋ってるわけです。民族主義のここがセンターなんですね。しかも宗教が違うんです。ここはカトリックなんです。見た目は(ギリシャ)正教と一緒なんですが、ユニア教会という特別なカトリックなんです。
それで、ソ連の占領のあと反ソ武装闘争がずっとあって、住民が多くカナダのエドモントンに移住したんです。カナダで一番喋られてるのが英語、二番目はケベックのフランス語、三番目ウクライナ語なんです。
この人達の資金援助なんかで独立がある。だからこの西ウクライナを中心とする勢力は常にロシア嫌い。他方東ウクライナの方は「僕たちウクライナ人なのかな、ロシア人なのかな」と、中間くらいなんですね。
あとロシアの軍事産業と、それから宇宙産業があるんで、もしここが西側と一緒になるんだったら、ロシアはクーデターを起こしてでも、そこをロシアとくっ付けます。こういう所なんで、いつも東と西の引き合いがあるんです。
それが今回オリンピック前なんで、あんまり乱暴な事をするとロシア、イメージ悪くなるからという事で、ウクライナに乱暴な事するなと、今の政権に言っていた。
アナウンサー:その国家機密の肝心な部分もあるということになると、実にデリケートな問題になってきますね。
ガリツィアの農村教会(西ウクライナ)
アナウンサー:アメリカは、どういうつもりで色々やってるんですか?
佐藤:アメリカは、あんまり難しい事はわかんないんです。この今私が話したレベルの事はアメリカの情報専門家や、外交官に話しても初めて知った、みたいな人が多いです。
アメリカはこういう機微に触れる、あんまり難しい事はわかんないです。それだから、中東では調子が悪いからウクライナで締めてやるかと、そんな感じですよね。
アナウンサー:なんかウクライナという国のね、言葉の響きみたいのは・・。
佐藤:「ウクライナ」というのはロシア語で「田舎」という意味です。それで自分たちはウクライニアと言うと「田舎者」と。そしたらいつの間にか自分たちは「田舎者」っていう民族だと、こういう風になっちゃったということですよね。
アナウンサー:しかし解決の目途みたいなのは?そこまで複雑だとかなり厳しいですね。
佐藤:解決、力で押し込むと同時に、26人死んだということは結構大きいショックですからね。ただ前、クリミアでは1,000人単位で死んでますから。どの辺の所でこれ以上やると自分たちにとって良くないと、双方のグループが思うかってとこです。
アナウンサー:今の大統領はどういう人なんですか?
佐藤:テクノクラートです。工場長みたいな人で、その観点からして軍産複合体の関係がいいですから、ロシアに近いですね。
アナウンサー:しかし今のお話伺っていると、スターリンがやった罪は重いですね。
佐藤:スターリンの負の遺産で。その意味においては負の遺産て今も続いていて、北方領土も日本の領土であるにも関わらず、スターリンが不法占拠したことが続いているわけで。このスターリンの負の遺産をどうやって克服していくかっていうのは現在のロシアにとっても重要な問題なんですよね。