
※この記事について、初めタイトルは「上官の命令は絶対ではなかった」だったのですが、「上官の命令を聞かなくてよいというのは間違いで、万一命令に従わなかった場合は『抗命罪』として軍法会議にかけられる場合もありうる」とのご指摘を受けましたので、上記のように訂正しました。
また、軍隊でも上官の命令を聞かない者もいたが、そのような軍人はアウトロー扱いされていたとのことです。ということで、ここでは内容を変えて、中には上官の命令を聞かない部下も存在した、という例を取り上げることにしたいと思います。
戦前の軍隊では軍人勅諭にあるように、「上官の命令は天皇の命令と心得よ」(注1)と言われ、上官の命令には絶対に逆らえなかったのではないかという印象があります。
注1:軍人勅諭に「下級のものは上官の命を承ること、実は直に朕が命を承る義なりと心得よ」という文言があった。
しかし文献を調べてみると、上官の命令を聞かない部下・下級者も存在していたというエピソードが散見されます。ここではそのような部下が上官の命令を聞かなかった例を取り上げ、整理してみます。
■新米士官の命令に従わないベテラン下士官
これは陸軍での話ですが、古参の准尉が大学上がりの新米少尉に何かと盾つき、命令を聞かずに困ったという例もありました。以下にエピソードが載っています。
●俳優・池部良の軍隊生活 【前編】
正確には下士官でなく軍隊生活12年の准士官ですが、彼は勝手に部下を乗馬訓練に連れ出したりして上官の見習士官を手こずらせます。上官を呼ぶ時も「池部少尉殿」ではなく、「池部さん」という言い方をして、上官に咎められています。
■陸軍将校にタメ口の水兵
陸軍の輸送船が撃沈され、遭難した陸軍将校たちが海軍艦艇に救助され、士官室に収容されていた時の出来事です。
「(甲板へ出ようとして)早くも(艦の)ドアのノッブに手を掛けた者がいた。ドアは、何の抵抗もなく、軽やかに開いた。ノッブを掴んだ(陸軍)少尉は、重くて、なかなか開きそうにないと思って、力いっぱいに引いたのだろう。勢い余って、テーブルまで飛んだ。
と同時に、白い作業衣を着た水兵が肩と顔を部屋の中に突っ込み、
『リクヘイさん、甲板に出るなって言われてんじゃねえのけ』と言った。
例の、横にいる半眼開きの(陸軍)中尉が、
『貴様、水兵じゃろが。将校に向かって、何たる口のきき方か』と大声を出して、水兵の胸ぐらを掴もうとしたが、疲労、睡眠不足、空腹にわずらわされ、『口のきき方か』を言い終わらない内に、よろりと腰が砕けて、僕に寄り掛かってしまった。
水兵は、リクヘイを相手にせず、ドアを閉めた」
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直属でない上官に従わない部下
階級が自分より上の軍人でも自分の直属の上官でない場合、自分とは関係がないので命令は聞かないという下級者もいたようです。しかし上級者は権威もありますし、一概に無視してもよいわけではありませんでした。
歯切れの悪い説明になってしまいましたが、つまり上級者に敬意を払わない者は自分も同様に扱われますし、その種の人間はいわゆる軍隊内でもアウトローと呼ばれていました。
映画「独立愚連隊 西へ」では、外部から小隊に一時的に加わった曹長と、隊所属の一等兵がソリが合わず、取っ組み合いのケンカをする場面がありました。 映画「独立愚連隊 西へ」で、よそ者の曹長(左)と小隊所属の一等兵(中央)が決闘する場面。
ただしこれは映画の中で、私的なケンカと断って行っています。しかし現実にも隊内部者(ウチ)と外部者(よそ者)では、扱いも違っていたようです。