アメリカは日本や他国と違い、大統領ではなく議会が戦争を行うかどうか決定する国です。『フェデラリスト』の著者であるハミルトンは、1788年3月14日、大統領権限についてこう述べています。

アレクサンダー・ハミルトン(1755-1804)
「大統領は、形式的にはイギリス国王と同等である。しかし、実際はもっと弱い。イギリス国王は戦争を宣言し、陸海軍を動員する権限を持っているのである。
それに対して大統領は、陸海軍に対する最高指揮権を持っているに過ぎない。現在(1788年)検討されている憲法においては、イギリス国王が持つそうした権限は議会に与えられることになる」
こうして今日に至るまでアメリカは、憲法第二条で大統領を「軍隊の最高司令官」とし、憲法第一条で議会が軍隊を動員し、戦争を宣言する唯一の権利を持つ、と定められています。
戦争を宣言する議会議員は国民により定期的に選出されます。従ってアメリカで軍隊を動かすのは、つまるところアメリカ国民ということになります。
このように米国民がアメリカ政府へ及ぼす影響は、日本の内閣・国民間が持つ関係を上回る強大なものであると言えます。
その中で国の軍事政策に特に深い影響を与えているのは、アメリカ国民の①理想主義・②実用主義・③非干渉主義という三つの性格です。
●アメリカ人の理想主義
この理想主義が軍事面に反映されると、アメリカは海外の人道主義や民主主義など、様々な問題に巻き込まれることになります。
例えば太平洋戦争が勃発した1942(昭和17)年1月6日、ルーズベルト大統領は年頭教書で、以下の4つの基本的自由を世界に浸透させるように提言しました。
(1)世界の全ての地域における言論表現の自由
(2)世界の全ての地域における信教の自由
(3)世界の全ての地域における欠乏からの自由
(4)世界の全ての地域における恐怖からの自由
「4つの自由」と似た内容の米国の謀略ビラが、戦争中の日本で撒かれていました。
「自由はいかなる地域においても最高の人権である。この新しい価値は、はるか遠い先のビジョンではない。われわれの時代、およびわれわれの世代において、この価値を基盤とする世界をつくることができるのだ」
と、ルーズベルト大統領は語っています。
現在アメリカでも従軍慰安婦問題が喧(かまびす)しいですが、この問題も単なる利害関係だけが背景にあると考えるのではなく、米国民のこのような性格も考慮に入れるべきでしょう。