
昨日の続きでタイタニック号が沈没し、乗船していたステッドが他界した直後の場面から始まります。



「自分でも何が何だかさっぱり分からないのですが、私は必死になって(他界した人たちを)手引きして、大きな乗り物とおぼしきものに案内してあげました。
やがて、すべてが終了しました。まるで得体の知れない乗り物が出発するのを待っている感じでした。言わば、悲劇が完了するのを待っていたようなものです。
ボートで逃れた者はもちろん生きて救われました。が、溺死した者も相変わらず生きているのです。
そこの集まっている人たちの情景は、それはそれは痛ましいかぎりでした。死んだことに気づいた者は、あとに残した家族のことと、自分はこれからどうなるかが不安のようでした。このまま神(ゴッド)の前へ連れて行かれて裁きを受けるのだろうか――どんな裁きが下されるのだろうかと、おびえた表情をしておりました。
精神的ショックで、茫然としている者もおりました。何が起きたのかも分からず、無表情でじっとしています。精神がマヒしているのです。こうして、新しい土地での評決を待つ不思議な一団がそこに集まっておりました。
事故はほんの数分間の出来事でした。あっという間に大変な数(1,500余名)の乗客が海に投げ出されて溺死し、波間に漂っておりました。が、その死体から脱け出た霊が次々と宙空へと引き上げられていったのです。生きているのです。
中にはすこぶる元気なものもいました。死んだことに気づきながらも、貴重品が惜しくて手に取ろうとするのに、どうしても掴めなくて、かんしゃくを起こしている者もいました。地上で大切にしていたものを失いたくなくて必死になっているのでした。
もちろん、タイタニック号が氷山と激突した時のシーンはあまりいいものではありませんでしたが、否応なしに肉体から救い出されて戸惑う霊たちの気の毒なシーンは、その比ではありませんでした。胸がしめつけられる思いのする、見るにしのびない光景でした。
その霊たちが全て救出されて一つの場所に集められ、用意万端が整ったところで、新しい土地(ブルーアイランド)へ向けて、その場全体が動き出したのです。
奇妙といえば、こんな奇妙な旅も初めてでした。上空へ向けて垂直に、物凄いスピードで上昇していくのです。まるで巨大なプラットフォームの上にいる感じでした。それが強烈な力とスピードで引き上げられていくのですが、少しも不安な気持ちがしないのです。まったく安定しているのです。
その旅がどのくらいかかったか、又、地球からどれくらいの距離まで飛んだのかは分かりません。が、到着した時の気分の素敵だったこと!うっとうしい空模様の国から、明るく澄み切った空の国へ来たみたいでした。全てが明るく、全てが美しいのです。
近づきつつある時からその美しさを垣間(かいま)見ることができましたので、霊的理解力の鋭い人は、たぶん急逝した者が連れて行かれる国なのだろうなどと言っておりました。精神的にまいっている新参者が、精神的なバランスを取り戻すのに適した場所なのです。
いよいよ到着するころまでには、みんな一種の自信のようなものを抱くようになっておりました。環境のすべてに実体があること、しっくりとした現実感があること。今しがたまで生活していた地上の環境と少しも変らないことを知ったからです。違うのは、全てが地上とは比較にならないくらい明るく美しいことでした。
しかも、それぞれに、かつて地上で友人だった者、親戚だった者が出迎えてくれました。そして、そこでタイタニック号の犠牲者は別れ別れになり、各自、霊界での生活体験の長い霊に付き添われて、それぞれの道を歩みはじめたのでした。」
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『タイタニック 沈没から始まった永遠の旅』、コナン・ドイル / 序、エステル・ステッド/ 編、近藤千雄 / 訳、1992年、ハート出版
キーワード:霊界入り、タイタニック沈没、事故死、死の様子