
「流れる星は生きている」 藤原てい、中央公論社、1984年8月
この本は軍事ものではないですが、終戦間際の満州からの民間人逃避行の話です。著者藤原ていさんは、作家新田次郎の奥様です。物語は満州の新京から始まります。
新京は『ジパング』では草加少佐が溥儀を謀殺しようとした地です。昭和20年8月のソ連参戦により、新京から日本へ向けて一家の壮絶な逃避行が始まります。
彼女は夫とはぐれ、幼児2人を連れ、生後1か月の赤ん坊を背負って着のみ着のまま中国・朝鮮半島を南下していきます。
この当時、著者同様の大勢の引揚者が南下していましたが、途中あまりの辛さに発狂する者、生き倒れで死ぬ者、激しい生存競争が展開されます。
途中で資金の尽きた著者は行商を行ったり、物乞いをしたり、生命の極限を体験します。そしてぼろぼろの乞食同然の姿で一家が日本へ到着した時は、新京出発から1年が経過していました。
これは小学生の時に一度読んだ本なのですが、今では乳児・幼児3人を連れての引揚げがどれだけ困難を極めたのかわかります。
伝聞ではどうにも連れて行けなくなった子供を泣く泣く殺して行ったとか、中国人に預けた話もよく聞きます。預けられた子供は、後に中国残留孤児となるのですが。
この本を読むと何か辛いことがあっても、自分はまだまだ大丈夫だと、励まされるような気分になります。