産業競争力強化法の改正法案について | 坂本雅彦のブログ

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作家、国会議員秘書、教員、学者

 産業競争力強化法の改正法案についてである。同法は2013年に成立し、規制の特例措置の整備等及びこれを通じた規制改革を推進し、併せて、産業活動における新陳代謝の活性化を促進するための措置、株式会社産業革新投資機構に特定事業活動の支援等に関する業務を行わせるための措置及び中小企業の活力の再生を円滑化するための措置を講じるための法律である。2021年の法改正ではバーチャルオンリー株主総会の実現のための特例やM&Aにおける株式譲渡益の課税繰延の措置が定められた。今回の法改正は戦略的国内投資の拡大に向けて、戦略分野への投資し生産に対する大規模かつ長期の税制措置及び研究開発拠点としての立地競争力を強化する税制措置を講じることと国内投資拡大に繋がるイノベーション及び新陳代謝の促進に向けて経済のけん引役である中堅企業やスタートアップへの集中支援等の措置を講じることの2本の柱からなる。

 戦略的国内投資の拡大とは内外の市場を獲得すること等が特に求められる商品を定義し、これを生産・販売する計画を主務大臣が認定して生産・販売量に応じた税額控除を可能とする。戦略的分野とは電気自動車等、グリーンスチール、グリーンケミカル、持続可能な航空燃料、半導体であり、EV40万円/台、グリーンスチール2万円/トン等の税額控除が受けられる。また、政府が事業活動における知的財産等の活用状況を調査できる規定を新設し、一定の知的財産を用いていることを確認できた場合には法人実効税率ベースで29.74%を約20%相当まで引下げる。知財の対象は国内で自ら研究開発して生み出した、特許権及びAI関連ソフトウェアの著作権、対象となる所得は対象知財のライセンス所得及び譲渡所得となる。

 常用従業員数2,000人以下の会社等を「中堅企業者」、特に賃金水準が高く国内投資に積極的な中堅企業者を「特定中堅企業者」と定義し、特定中堅企業者等について成長を伴う事業再編の計画を申請し主務大臣が認定する。特定中堅企業者又は中小企業者が、複数回の

M&Aを行う場合、株式取得価額の最大100%・10年間、損失準備金として積立可能にする。また、日本政策金融公庫による大規模・長期の金融支援を行い、知財管理に関する独立行政法人工業所有権情報・研修館法の助成や助言を提供する。認定を受けた特定中堅企業者には設備投資の税額控除を6%にする。スタートアップ企業に対して産業革新投資機構が有価証券等の処分を行う期限を2050年3月末までに延長する。また、株主総会から取締役会に委任できる内容・期間を拡大してストックオプションを柔軟かつ機動的に発行できる仕組みを整備する。横断的措置として企業・大学等の共同研究開発に関する標準化と知的財産を活用した市場創出の計画を主務大臣が認定し、独立行政法人工業所有権情報・研修館法や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が助言を行う。

 これまでに各省庁から産競法の認定を受けて事業を紹介する。アイリスオーヤマは経済産業省の認定を2024年1月に受けた。角田工場にてパック米製造ラインを増設し、販売量・輸出量の増加による収益の向上し新たな雇用を創出した。同工場にて太陽光発電自家消費設備を導入することによりエネルギーコスト削減による付加価値額の増加及びエネルギー起源CO2排出量の削減に寄与した。これらの取組により角田工場の炭素生産性を15.06%向上させることを目標としている。裾野工場の新設に伴い、炭酸水製造ライン及び天然水製造ラインを導入し、販売量増加による収益の向上及び新たな雇用の創出により付加価値額が増加した。この取組により裾野工場の炭素生産性を32.88%向上させる予定である。埼玉工場において太陽光発電自家消費設備を導入することによりエネルギーコスト削減によって付加価値額の増加及びエネルギー起源CO2排出量の削減に寄与する。この取組により埼玉工場の炭素生産性を37.01%向上させる。認定によりカーボンニュートラルに向けた投資促進税制の適用を受けることが可能になる。

 九電工は国土交通省の認定を2021年に受けている。DX化を推進する施策を講じる計画として、新しい働き方を創造し従業員の生産性を向上させること、業務プロセスを根本から見直しデジタル技術で業務をあるべき姿へ導くこと、各企業や各部門と連携しデジタル変革を担う人財を採用・育成することの3点を重点項目として掲げ取り組む。また、顧客所有の大型商業施設向けに開発するAI熱源コントローラーを利用した保守点検業務委託を含む設備工事業の推進を図る。これまでにAIを利用した熱源制御システムは無いため、まず既存の店舗でのデータを取得し、顧客データと合わせてクラウド上で一元管理します。次に熱負荷予測モデルを構築し、シミュレータを完了させ最適化モデルを構築する。大型商業施設などの保守点検業務などで作業に従事する際に取得する建物内の空調機器の稼働状況や外気温データなどを、クラウド上に逐一吸い上げ一元管理し、これらをAIで解析し最適な運転に関するアドバイス情報として顧客に提供することにも取り組む。認定による措置はDX投資促進税制によって講じられる。

 明治安田生命は2023年11月に金融庁の認定を受けた。エネルギー利用環境負荷低減事業として4事業所において長期修繕等の改修時期とあわせ照明器具のLED化を行うことによりCO2排出量を減少させて炭素生産性を向上させる。また、会社全体としては主要な本社機能が入居するビル1棟及び一部拠点が使用する電力について再生可能エネルギー由来の電力への切り替えを進めることにより、2022 年度末よりCO2を削減し2023年度の炭素生産性を 33.6%向上させる計画である。認定による支援措置としてカーボンニュートラルに向けた投資促進税制が適用される。

 LINEヤフーは2023年11月に総務省の認定を受けている。エネルギー利用環境負荷低減事業としてマルチビッグデータに対応できるエネルギー効率の高い設備を導入した環境配慮型の次世代データセンターを増築することで広告サービス、コマースサービス等の品質の向上及び安定的な供給といった付加価値の提供と環境への負担低減の両立を図る。新たなテクノロジーの導入によりサーバー電力の削減や電力損失の削減等、省電力を叶えつつ、データ圧縮、データ保存の最適化によりマルチビッグデータに対応できるデータセンターの建設を進めている。白河データセンター5号棟ではラック数90%削減、電力80%の削減を予定している。認定による支援措置としてカーボンニュートラルに向けた投資促進税制が適用される。

 オーナシップ社は2023年8月に法務省の認定を受けた。「電子記録移転権利」の投資家間売買契約成立時に、「電子記録移転権利」の発行者(債務者)から売主投資家(債権譲渡人)に対して当該売買契約(債権譲渡)を承諾する旨の通知(以下「本承諾通知」という。)を行うことにより、発行者(債務者)が売主投資家(債権譲渡人)に対して本承諾通知を行った時点で、発行者(債務者)が当該売買契約(債権譲渡)の「確定日付のある証書」による承諾を行ったものとする情報処理システムを提供する。デジタル化へ対応する新事業構築として認定されDX投資促進税制が適用される。

 省庁に認定以外にも市区町村が創業支援等事業者と連携して策定する創業支援等事業計画は令和5年12月現在1,332件(1,491市区町村)が中小企業庁によって認定されている。

 企業による脱炭素やデジタル分野の国内投資を後押しするために認定を受けた企業が初期投資だけでなく複数年で支援を受けられる枠組みを提供してきた。今回の改正案では中堅企業者を2000人規模と定義付けて支援を厚くした。さらに支援する特定分野を戦略的分野として明確にした。GDPの成長率は4%を超え、日経平均株価も4万円を超えた。地味に快進撃を続ける日本経済であるがここが正念場、供給力とバランスした需要が必要となる。所得向上に向けた本格的な財政出動が期待される。

 

*戦略的分野が自動車や製鉄や半導体など大企業をターゲットしているように思われる。ITなど特定中堅企業が多く携わる分野も含めるべきではないか。

*立地競争力を強化する税制措置とは具体的にどのようなものか。国内生産を呼び込むための法人税引き下げ競争に起こして、逆に国民の税負担増に繋がらないか。

*特定中堅企業について、給与水準の高いとは具体的にどのくらいか、設備投資に積極的とはその基準があるのか。

*国内の90%以上が中小企業ではあるが、中小企業と切り離し中堅企業への支援を厚くする意義は。

 

参考

 

新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案 参議院

https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/213/pdf/t0802130232130.pdf

 

産業競争力強化法等(※)の一部を改正する法律案の概要 経産省

https://www.meti.go.jp/press/2023/02/20240216001/20240216001-a.pdf

 

「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律案」が閣議決定されました 経産省

https://www.meti.go.jp/press/2023/02/20240216001/20240216001.html

 

「中堅企業」法的に位置づけ、税制優遇へ 中小除く2千人以下の会社 朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASS1J6JMMS1JUTFK01N.html

 

アイリスオーヤマ株式会社の産業競争力強化法に基づく事業適応計画の変更の認定について 農水省

https://www.maff.go.jp/j/press/nousan/b_taisaku/240112.html

 

産業競争力強化法に基づく「事業適応計画」・「事業再編計画」の認定 国交省

https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk2_000001_00005.html

 

明治安田生命保険相互会社の産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定について

金融庁

https://www.fsa.go.jp/news/r5/hoken/20231124/20231124.html

 

株式会社千葉銀行の産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定について 金融庁

https://www.fsa.go.jp/news/r5/ginkou/20231025-2/20231025-2.html

 

産業競争力強化法の改正案について 令和3年5月

https://www.bpfj.jp/cms/wp-content/uploads/2021/05/%E7%B5%8C%E6%B8%88%E7%94%A3%E6%A5%AD%E7%9C%81%E8%B3%87%E6%96%99%E3%80%80%E3%80%8C%E7%94%A3%E6%A5%AD%E7%AB%B6%E4%BA%89%E5%8A%9B%E5%BC%B7%E5%8C%96%E6%B3%95%E3%81%AE%E6%94%B9%E6%AD%A3%E6%A1%88%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E3%80%8D.pdf

 

産業競争力強化法 Wiki

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%A3%E6%A5%AD%E7%AB%B6%E4%BA%89%E5%8A%9B%E5%BC%B7%E5%8C%96%E6%B3%95