坂本雅彦のブログ

坂本雅彦のブログ

作家、国会議員秘書、教員、学者

 兵どもの夢のあと、と言いたいところだが民主党の残党が変色しかかった紙を持って蠢いている。昔、中森明菜が歌っていた。「今じゃ寂れてオンボロロ、御ボロボロロ、変わらぬものは古代文字」忘れかけていた石狩挽歌である。

 2009年の衆議院選挙で「国家公務員の総人件費を2割削減する」とマニフェストに謳って勝利した民主党が2010年のマニフェストに内閣府外局として公務員庁を新設すると記載した。政権与党の民主党は国会に法案を提出したが成立しなかった。いくら参議院がねじれていたと言っても衆議院で308議席も持っていた与党の閣法であるのに成立しないのだから相当なポンコツ法案だと解釈する。

 そもそも国家公務員法に基づいた組織として既に人事院が存在する。人事院は内閣府の外局ではなく内閣の直属にあたる機関である。内閣の直属とはいえ国家公務員法は人事院の制定となっており国家行政組織法は適用されない裁判所や会計検査院に似たような存在である。それだけ強固な権力を持っていると考えてよい。

 民主党はマニフェストに公務員庁を新設して国家公務員の人件費を2割削減するというアドバルーンを上げたものの人事院勧告が存在することで実現不可能であることを後になって知る。困った民主党政権が思いついたのがこの公務員庁の創設である。

 国家公務員に認められていない労働協約締結権を認め、そのための政府(雇用者)側の窓口として新たに公務員庁を設置することなどをマニュフェストに盛り込んだ。公務員の労使交渉の窓口として公務員庁を設置し、公務員給料の総額が2割を削減するというのだから発想が悪質ではないか。公務員の労使交渉を可能にして待遇の改善を図ると見せかけて、実は政府と公務員庁は一体を為す内閣と内閣府外局である。言いなりになる交渉窓口を創設し労使協約を締結できるようにする、要は人事院とは別に一見民主的な労使交渉窓口をつくり、まるで近代的公務員制度に改めるように見せかけ、実は給与2割カットの公約の実現性を維持するためのアリバイ工作にすぎない。

 2009年というと世界的な不況の真只中であった。前年に発生したリーマンショックの影響も覚めやまぬ中、ギリシャの債務問題発覚から欧州の債務危機へと波及した。世界経済がデフレ不況となる中、日本も前年に引き続きマイナス成長となり日本経済を支えてきた輸出が陰りを見せ、石油や輸入資材の高騰が企業収益を圧縮していた。日本経済を支えてきた外需が急速に低下し内需を活性化することができるかが大きな課題となっていた。

 そのような国民デフレマインドをうまく利用して2009年の衆院選で票を集めたのが民主党である。人件費削減や事業仕分けなどコストカットを進める中で民主党のマニフェストの虚構も露わとなっていく。ただ民主党に大きな風が一旦吹いたことは事実で2010年の参院選では民主党以外の各党も一斉にコストカットを公約にする。引き金となった民主党はその裏で実現の可能性が極めて低いことも認識していたはずである。その証左に民主党政権は人事院勧告に深入りせず丸々受け入れている。

 自民党の公約は民主党にならって国家公務員の総人件費を2割削減することを挙げている。ただし、よく読んでみると、各府省共通の間接業務の一括外部化による削減であるから国家としての出費が減るわけではない。国家公務員がしていた業務を外注に代えるという手法であるから人件費が外注費に代わるだけだ。さすが長年、政権を担当してきた自民党だけあって民主党が実現不可能であることを見抜いていたからこその詭弁である。公明党は数値目標は示さず公務員の総人数の見直しを行うとした。共産党は人員削減には反対し特権的な官僚制度を見直すとだけ公言した。たちあがれ日本は民主党案に乗っかり単純に人件費2割削減を公約とした。新党改革と国民新党は言及していない。社民党は財務省が増税の為のスケープゴードとして公務員給与問題を利用していると見なして糾弾した。公務員給料に関して民主党を超える公約を謳った政党がある。いまは無きみんなの党である。みんなの党は国家公務員だけでなく地方公務員の給料も含めて全体で2割をカットすることを公約に載せた。みんなの党はさらに国と地方の公務員のボーナスについては3割をカットするとした。それだけではない、みんなの党は公務員の身分保障を解き民間企業並みのリストラをできるようにするとした。みんなの党は結党時から脱官僚を掲げ公務員10万人削減計画などを掲げている。政権交代のあった2009年の衆院選と翌年の参院選で合計13名のみんなの党の国会議員が誕生した。完了を叩けば叩くほど票が入るという構図生み出したかの如く躍進した。

 民主党やみんなの党が躍進する中、官僚も黙っていない。減税を言い出したり、官僚を露骨に批判した政治家にはメガトン級のスキャンダルが明るみに出るという霞が関の都市伝説がある。御多分に漏れずみんなの党も大きなスキャンダルに見舞われる。創始者の渡辺喜美氏がDHCの吉田会長から8億円以上を借りていたことが発覚する。この借り入れは政治資金収支報告書に記載されておらず公職選挙法や政治資金規正法に違反しているのではないかとの疑惑が持ち上がった。党内では渡辺氏の辞任を求める声が大きくなり、渡辺氏も混乱の責任を取る形で代表を辞任している。

 民主党では政権交代を成し遂げた小沢一郎氏の秘書が政治資金規正法違反で逮捕されている。これが引き金となり小沢氏は党代表から退くこととなった。この小沢一郎氏の秘書の逮捕を受けて国策捜査だと糾弾した政権交代時の総理である鳩山由紀夫氏にも政治と金の問題が発覚する。既に亡くなっている人物からの寄付が鳩山氏の政治団体の収支報告書に複数載せられていることが明らかになる。それ以外にも住所が存在しないなど実態のない寄付が193名も判明した。政権交代時の2008年の収支報告書では鳩山氏に寄付をした70名中55名が虚偽の記載であることが判明し、秘書は起訴されて有罪判決を受けている。その後、鳩山氏の事務所の家賃負担の問題や実母からの資金提供の問題など次々と発覚し東京地検特捜部がその一部を偽装献金であると結論付けるに至る。

 こうした経緯を鑑みると官僚とりわけ財務省を怒らせた政治家は意図的に失脚させられるという都市伝説も案外虚言ではなさそうだ。公家による政治から武家政治を経て現代に至るまで君主は摂政に操られてきた。いつの時代も変わらずそのようである。

 さて、公務員庁の創設法案であるが、二重行政に陥る危険性もあることからその必要は無いと考える。国家公務員の任免、分限、懲戒、服務及び退職管理に関する制度に関することは内閣府人事局で行っている。国家公務員の給与、勤務時間、休日及び休暇に関する制度に関することは人事院の領域である。国家公務員の人事評価に関する制度に関することは各省庁で行わないと仕事内容の機微がわからない。国家公務員の退職手当制度に関することも人事院が監督すれば良いのではないか。国家公務員の団体交渉及び団体協約に関することは不要である。なぜなら、国家公務員にそのような権限は与えられていない。その権限がないから人事院がそれを補完する機能を果たしている。国家公務員の総人件費の基本方針及び人件費予算の配分の方針の企画及び立案並びに調整に関することは財務省と総務省で協議する事項である。国家公務員の人事行政に関することは内閣府と各省庁の協議により決定することが自然であろう。行政機関の機構、定員並びに運営の改善及び効率化に関する企画及び立案並びに調整に関することは行政の評価レビューを正確に把握し運営に活かせば済む。各行政機関の機構の新設、改正及び廃止並びに定員の設置、増減及び廃止に関する審査を行うことも各省庁と会計検査院や各省庁の事業評価監査で十分であろう。行政機関が共用する情報システムの整備及び管理に関することは総務省とデジタル庁で担える。

 人事院や総務省行政管理局等に分散されている給与制度や定員の管理、人件費などの権限を移管し集約するために必要だという意見もあるが、現状の推移において国家公務員の人件費が増加傾向にあったり、人員が過度に増えていることもない。へたに新たな官庁を生むと業務の領域でせめぎ合ったり、権限が重なったりすることも十分に考えられる。何より、デジタル庁、こども家庭庁、危機管理統括庁など新しい行政機関が複数創設されている。政府はこれ以上省庁を増やすべきではない。頭でっかち尻つぼみになる。