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坂本雅彦のブログ

作家、国会議員秘書、教員、学者

 東日本大震災時やコロナ禍時に事業者に対する資金繰りの支援を政府は主導して行って来た。突如、見舞われる自然災害や疫病禍において国民の過失はない。不運では済まされない状況に苛まれる事業者も多い。憲法第25条で国家は生命と財産を守る義務が定められている。それは国民保護法でいう武力攻撃事態に対する対処だけではない。国や都道府県、市町村、指定公共機関がすべき責務、併せて災害時の財政や金融に関する措置も災害対策基本法に規定されている。

 東日本大震災が発生し経営基盤を揺らいだ事業者への金融支援策としてセーフティー保証4号とその業種を規定するセーフティー保証5号が国の保証制度として確立した。4号は災害の影響が出ている地域で売上げが前年同月比で20%以上減少している場合に別枠で100%の保証、5号は前年同月比で5%以上売上が減少して場合は別枠で80%の保証を受けられる。信用医保険法第2条第5項第4号のことを言い、自然災害等の突発的事由(噴火、地震、台風等)により経営の安定に支障を生じている中小企業者への資金供給の円滑化を図るため、災害救助法が適用された場合又は都道府県から要請があり国として指定する必要があると認める場合に、信用保証協会が通常の保証限度額とは別枠(最大2.8億円)で借入債務の100%を保証する制度である。

 東日本大震災時(平成23年)の全国保証協会の保証受諾件数は約13万件、保証金額は約2兆7千億円であり例年より25%ほど多くなった。平均返済期間は7.2年であるが、その間で代位返済の件数が極端に多くはなっていない。災害発生年の平成23年と翌年の平成24年は代位弁済が増えてはいるがセーフティーネット保証による融資ではなく通常の融資分の処理が多かったとみられる。東日本大震災を含む震災やその他台風被害等においてセーフティーネット保証4号や5号の指定は行われているが、その認定を受けた融資の返済状況に関するデータは見当たらない。発災からコロナ禍が始まるまでの10年間における代位弁済の件数は安定しており極端に増えるような年度はないことから、東日本大震災におけるセーフティーネット保証制度を利用した融資の返済は比較的順調に進んだものと察する。ただし、返済期間が最長13年であることからコロナ禍と返済時期が重なっていることも予想される。新型コロナ感染症に対するセーフティーネット保証が2020年5月から行われている。コロナ禍の事業者の資金繰りを東日本大震災時と同様に政府が実施したことから保証協会の代位弁済数はコロナ前と比較して大きな変化は見られなかった。よって、東日本大震災時の緊急融資に対する事業者の返済にはあまり影響しなかったと思われる。

 2020年4月に新型コロナウイルス感染症の影響により緊急事態宣言が発せられた。それによって国民は行動を制限され、飲食店の営業も制限された。結果として観光業や飲食業をはじめとした多くの事業者や企業が売上減少に陥り支援の必要性が生じた。コロナ禍の事業者に対する資金繰り支援策で良く聞かれるのがゼロゼロ融資である。ゼロゼロ融資とは新型コロナウイルス感染症流行の影響によって売り上げが減少した個人事業者や中小企業に対して実質無担保・無利子で融資する仕組みのことであり、コロナ禍が始まった2020年から開始され、政府系金融機関は2022年9月、民間金融機関は2021年3月まで実施された。中小企業庁によれば2022年6月末時点で融資実績は国全体で約234万件、42兆円とされている。

 日本政策公庫の新型コロナウイルス対策マル経融資(別枠1千万円)と商工中金の新型コロナ感染症特別貸付の別枠8千万円の他に民間金融機関による新型コロナウイルス感染症対応資金としてセーフティーネット保証4号(売上高20%以上減少)セーフティーネット保証5号(売上高5%以上減少)のいずれかの認定を受けることで6千万円を上限に当初3年間は無利子無担保で融資を受けることが出来た。政府系金融機関も民間金融機関も返済の据置期間は5年以内であることから融資を利用した多くの事業者の返済が始まりつつある。エヌエヌ生命の調査では中小企業の20%がゼロゼロ融資を利用しており、利用額の平均は約2千万円に上る。政府の資金繰り支援によってコロナ禍でありながら2021年の企業の倒産件数は約6千件となり50年ぶりの低水準となったことからセーフティーネット保証制度が機能して役割を果たしたことは間違いない。

 ゼロゼロ融資の据置期間の上限は5年であるが利子の免除期間は3年であることから既に返済を開始している企業が殆どある。ゼロゼロ融資は何度も利用できることから複数回利用した企業は返済開始時に売上が回復していないと資金繰りが行き詰まる可能性が高い。コロナ禍の影響から世界的に物価高が進み、円安によって資金が流出している企業も少なくない。

 そうした状況を踏まえて政府は更なる支援策を開始した。セーフティーネット4号または5号の認定を受け、売上高か総利益率が5%以上減少している企業が借換えを行う際のコロナ借換保証制度で信用保証料を0.85%から0.2%へと大幅に軽減することができる。コロナ禍が明けてリベンジ消費など経済の好転が期待される中、過度の円安やコストプッシュ型のインフレ、エネルギーの高騰などが中小企業の事業再生の足枷となっている。ゼロゼロ融資によって多くの企業がコロナ禍での倒産を免れることが出来たのは確かであるが、返済が本格化した現在において新たな外因が重くのしかかり事業をうまく立て直せないでいる企業も多い。そうした事業者はコロナ借換保証の利用を検討すべきであろう。

 一方、事業の再生に苦しむ企業を一律に救済する施策が日本社会や経済にとって有効で不可欠だと言えない。事業性や将来性、有用性を毀損された企業の救済に終始することは多くのゾンビ企業を生み出すことに繋がる。社会や経済の停滞を招く恐れがあるし、技術革新や生産性の向上が阻害される可能性もある。人材の停滞も招くかもしれない。万事においてコロナ前の状態に戻すという発想は頂けない。コロナ明けの今は大きな社会変革の機会であるし企業の新陳代謝を進めるチャンスである。物事の価値観や、その価値観の多様性も進展している。

 政府は、7月以降はコロナ前の資金繰り支援の水準に戻す。今後は自立を促す支援に転換する。2024年の倒産件数は1万件を超えるかもしれないペースになっている。しかし、コロナ前に倒産件数が1万件を上回ることはしばしばあった。1万件という倒産件数は特別に多いということは決してない。信用保証協会による代位弁済率はコロナ前より大幅に低い。2024年4月からゼロゼロ融資の返済開始の2回目のピークを迎える。政府が公表するゼロゼロ融資の返済状況以上に現実の悪化している可能性がある。融資残高約19兆円のうちか完済したとされるのは約5兆円。その約5兆円のうち約3兆円は借換えた過ぎない。リスク管理および償却の必要を要する債権は約1兆円に上る。安易な借換えやリスケによる延命は国家経済に寄与しない。経営サポートと称する認定経営革新等支援機関の支援も無意味であり金融機関の融資審査や取引先管理のエクスキューズを担うに過ぎないであろう。政府は経営のDX化、生産性の向上、技術革新、先端的な研究開発、作業効率化など重点課題に資金の投資を進めなければならないし、コロナ明けのタイミングはまたとない好機である。経済の新陳代謝を進めるための第一歩は経営改善が見られない企業の延命策を断つことではないだろうか。

 

参考

セーフティネット保証4号の概要 中小企業庁

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/2024/240308_4gou.pdf

東日本大震災復興緊急保証の概要① 中小企業庁

https://www.chusho.meti.go.jp/earthquake2011/download/110617Eq-F-K2.pdf

災害援護資金の償還開始について 気仙沼市

https://www.kesennuma.miyagi.jp/sec/s019/content/290810shiryou4.pdf

ゼロゼロ融資とは?わかりやすく解説【2023年版】 THE FINANCE

https://thefinance.jp/strategy/231113

全国信用保証協会連合会「信用保証実績の推移」(2024.6.25)

https://www.zenshinhoren.or.jp/document/hosho_jisseki.pdf

日経新聞「ゼロゼロ融資とは 都道府県が利子補給 きょうのことば」(2021.

10.24)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB2338D0T21C21A0000000/

J-Net21「民間金融機関での実質無利子・無担保・据置最大5年・保証料減免の融

資」(2021.2.19更新)

https://j-net21.smrj.go.jp/support/covid-19/taisaku/teate/murshi.html

会計検査院 令和4年度決算検査報告「日本政策金融公庫等が実施した新型コロ

ナ特別貸付等の状況」(2023.11.7)

https://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary04/pdf/fy04_tokutyou_03.pdf#page=3

中小企業庁 中小企業政策審議会金融小委員会(第12回)事務局説明資料(2024

.3.29)

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kinyu/012/002.pdf#page=6

中小企業庁「民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度(コロナ借換

保証)を開始します。」(2024.6.14更新)

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/sinyouhosyou/karikae.html

中小企業庁 中小企業政策審議会金融小委員会(第10回)事務局説明資料

(2023.6.29)

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kinyu/010/02.pdf#page=6

東京商工リサーチ「2024年上半期の「ゼロゼロ融資」利用後倒産は327件 倒産

の増勢を維持、高止まりで推移」(2024.7.5)

https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1198735_1527.html

東日本大震災 信用保証協会別承諾実績、業種別保証承諾実績(2018,12,31更新)

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/earthquake2011/2018/181231shinsaiShinyoJisseki.pdf

中小企業庁「東日本大震災後の資金繰り支援策の実施状況」

https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/shikinguri/earthquake2011/index.html

全国の中小企業における“ゼロゼロ融資”の利用状況に関する調査 エヌエヌ生命

~ 利用率 2 割超で平均約 2,000 万円。6 社に 1 社が返済困難な見通し ~

https://www.nnlife.co.jp/library/pdf/company/news/2022/20220315_capitalneeds_nointerestnocollateral.pdf