着地したウルブレードが見上げると、べアックスは頭から流血したまま立ちつくしていた。上空からの上段切りゆえに、標的はおのずと敵の頭上に定められる。そして、不意打ちでの発動に成功したので、防御されることもなかった。脳天に渾身の一撃をたたきこまれては、いかに石頭を誇っていたとしても、ただでは済むまい。
「やってくれるじゃねえか、若狼」
ベアックスが滴り落ちる血液をなめる。激痛にさいなまれているはずだが、その堂々とした態度は逆に、あの攻撃が無意味とまで錯覚させたのだ。
その証拠に、べアックスが伸ばした手によって、ウルブレードはいとも簡単に胸倉をつかまれてしまった。
「頭が痛くてたまらねえな。貴様にもこの痛みを思い知らせてやらねえとな」
言うが早いか、ウルブレードの額に頭突きをくらわせた。損傷しているはずの部位で攻撃するなど、無茶苦茶な戦法にもほどがある。この一撃でウルブレードはよろめき、そのまま地面にねじ伏せられた。
「もうあいつ無茶苦茶だよ」
「ああ。まさか、あの技が通用しないなんて」
ウルブレード以上に、戦いを見守っていたガゼルスピアーとブルドリラーが絶望した。
「ここまで強いとは、ノロイムカデ、あいつもしかしたら、あれの使い手なんじゃない」
「そうに違いないの。ウルブレードと同じく、あの能力が使えるとは」
ソニクジャクとノロイムカデは別の意味で驚愕していたが、その詳細は残る二体にはあずかり知らぬことだった。
ベアックスは、首根っこを押さえたまま、右の斧を振りおろそうとする。正真正銘のギロチンを受けそうになるが、首を傾け、斧を地面に突き刺させる。それによって体勢が崩れたのを機に、ウルブレードは体を転がし、べアックスの手中からの脱出を図った。
絶え間なく滴り落ちる血液で、ウルブレードの白い毛並に、紅の筋が通っていた。血化粧を施したべアックスは不気味の一言に尽きるが、その外見はまだ序の口である。時折にやつきながらも、荒い呼吸でひたすらウルブレードをにらむその姿。そこに、ウルブレードはかつて父親から聞かされたあの姿を重ね合わせていたのだ。
その力に頼っては真の最強にはなれぬとくぎを刺され、自ら封印した禁術。おそらくは、あの一撃がスイッチとなったのであろうが、べアックスもまたあの力の使い手であったことは間違いない。
「貴様も俺と同じであったということか。あの忌まわしき狂者の血の使い手、そうだろ」
ベアックスは肯定する代わりに、咆哮しながら斧を広げ、飛びかかってきた。