お待たせしました。あの突発企画の続きです。
「畜生!!」
ウルブレードは、刃の切っ先を地面に叩きつけた。
獣刃大将軍の本拠地。呪術軍師軍に敗北した彼らは、疲弊した体を引きずりながら戻ってきた。洞窟を改装したこの基地では、戦闘に参加しなかったモグーン兵が、総出で治療にあたっていた。
ウルブレードは何度も地団太を踏んだ。惨敗したことの悔しさはもちろんのこと、彼にとって一番の屈辱は父親と比較されることであった。
ウルカリバー。地底帝国の戦士ならばその名を知らぬ者はいない、伝説の戦士。かの有名なアーサー王が愛用したエクスカリバーと同型の剣を振るい、一騎当千を素で成し遂げる男。おそらく、存命であったなら、皇帝にまで上り詰めていたであろうとも言われている。
しかし、優秀な戦士ほど、その命のともしびははかないものであった。いくら屈強な肉体を有していても、その内部を侵食する病魔に打ち勝つことはできなかったのである。
伝染病に侵され、その生涯を閉じたのは、かれこれ三年前のことであった。
優秀な戦士であった父の血を継いでいるとはいえ、ウルブレードにとって致命的だったのは実戦経験の浅さであった。どんなに優れた力を持っていたとしても、幾多の戦場を経験してきた他の二軍団の知恵や経験には遠く及ばない。特に、父と双璧に近い位置まで上り詰めていたノロイムカデには、ことごとく負け続けていた。
皇帝決定のルールとして、一年間の戦闘でより多くの勝ち星をあげた軍団の長が、その冠をいただくことになっている。この戦闘の間は、特別な事情がない限り、戦闘不能にすることはあっても、命を奪うことは禁止だ。戦闘民族とはいえ、自らの子孫を根絶やしにしてまで戦うほど愚かではないのである。
「やれやれ、またやられたのか。ウルの大将も地に落ちたみたいだな」
「黙れ。貴様、今回の戦闘に参加してないくせに大口をたたくな」
「別戦で勝ち星を稼いでやったんだ。文句を言われる筋合いはないね」
ウルブレードといい争っているのは、象の顔をした灰色の肌の巨漢エレファンマーであった。ワザワイカブトの木槌の二倍ほどの大きさのハンマーを肩に担いでいる。彼は、獣刃大将軍第二部隊を率いる大将でもあった。こういうと聞こえはいいが、所詮は二軍のトップという立ち位置である。
総大将が指揮をとるメインの戦争とは別に、二軍戦士同士での戦争も行われている。ただし、三勝しないと勝ち星が認められないというルールが設けられており、あくまでおまけみたいなものである。
「それに、ブルドリラーとガゼルスピアーも情けないったらありゃしないな。一軍の力はそんなもんかよ。俺が指揮した方が、よっぽど戦績が上がるんじゃないか」
「なにを」
「よせ、ガセルスピアー。所詮、一軍に上がれないものの泣きごとに過ぎぬ」
いきり立って飛びかかろうとするガゼルスピアーを、ブルドリラーが引きとめた。とはいえ、ブルドリラー自身も、この生意気な男を認めているわけではなかった。
戦績の悪さは、ウルブレードの統率力の低さにも原因があった。現在の軍のメンバーのほとんどは、伝説の戦士とともに戦ったことがある者ばかりだ。父と比較され、格下に見られてしまうのは、ある意味当然の流れではあった。
それゆえにウルブレードは日々の鍛練を欠かしたことはない。父が遂に成し遂げることができなかった皇帝のイスを手にし、名実ともにアングラー最強となるために。
「あ~ら、同じお仲間なのに、ずいぶんと仲が悪いこと」
「誰だ」
どこからともなく、妖艶な声が響く。ウルブレードたちが周囲を探っていると、突如二つの影が舞い降りた。一早く気配に気づいたウルブレードが、刃で一閃しようとする。が、振りぬこうと踏み足をした瞬間、その足が凍りついた。それは決して比喩ではない。現に、足元が異常に冷たい。
「けんかなんかするつもりはないわよ」
「じゃあ、この氷はなんだ」
「刃をしまったら教えてあげる」
素直に言うことを聞くのは癪だが、この女に戦意がないことは明らかである。戦闘で培った勘が、本気を出せば心臓を貫くことだって可能だったと告げている。ウルブレードは刃を鞘におさめた。
「もういいわよ、コルコンドル」
「御意」
コルコンドルと呼ばれた戦士は、翼をはためかせた。すると、ウルブレードを拘束していた氷が溶けていく。以前も戦ったことがあるのでよく知っていた。風切頭領軍の戦士コルコンドル。冷気を操る攻撃が得意な戦士だ。
そう考えると、ブルドリラーやガゼルスピアーをけん制している戦士の正体もはっきりした。やつは、エレキバット。超音波で方向感覚を狂わせることができる。
そして、ウルブレードと対峙している女性戦士こそ、風切頭領軍の長ソニクジャクだった。
「部外者の侵入をやすやすと許すなんて、獣刃大将軍は相変わらず大したことがないわね」
「黙れ。戦争を仕掛けてきたのなら、もっと正々堂々と乗り込んだらどうだ」
「血の気の多いこと。別に、私は戦いに来たわけじゃないわ。むしろ、その逆」
その直後のソニクジャクの言葉は、ウルブレードを大いに混乱させるのであった。
「あなたと同盟を結びにきたのよ」
この文量を書くのに一時間近くかかるな。あ、もちろん続きますよ。