演劇〈パンヤ〉あらすじ | 韓国ミュージカルを 訳しまくるブログ

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韓国ミュージカル
全ては自分の予習復習のため
(注意: 目標はネタバレ100%)
近頃はメモ付き写真アルバムとしても使用中。



需要が無いのは分かっているけど、理解が追い付かなくても面白い演劇だったので、理解したらどんなに感動するだろうかと楽しみで、買って来た戯曲を斜め読み。

 

パン屋さんの話ではなく、1945年に仁川で作られた日本式長銃がたどった時代の物語。


擬人化された長銃の名前が「パンヤ」

 

劇作家ナナが書いていく「パンヤ」とその持ち主たちの物語、そして番組編成を目指してプロデューサーと交渉するナナの物語が同時進行していく。

 

「パンヤ」の持ち主は10名余り。多くの場合、次の持ち主の手に渡るのは元の持ち主が息絶えるから。舞台となるのは様々な戦争、暴動、虐殺…。

 

敗戦で日本の支配が終わってからも平和は遠く、韓国戦争が終結するまで多くの血が流された。(あ、終結はしていなかったのだった!)

 

結局は共産主義との闘いに見える。イデオロギーの戦いなのか、イデオロギーをまとった権力闘争なのか、大国の思惑なのか、詳しくは知らない。しかし、戦ったのは普通の人々だ。

 

日本の終戦以降が平らかな時代だったとは思わないが、中国と地続きの朝鮮半島が経験した苦しみは、島国の日本とは比べられないと改めて感じた。

 


 

パンヤの誕生

1945年日本軍仁川造兵廠で誕生。菊の御門を焼き印され満州へ輸送される。


 

最初の持ち主

満州の日本関東軍将校、木村(パク・マンデ)

強者にへつらい、弱者を踏みにじる男。韓国人だが日本人であるかのように振舞う。仁川から送られてきた銃の中からパンヤを手に取る。

 

部下の朝鮮人をいたぶり、ナム・キルナムにパンヤを与えてスパイ容疑の村人を撃つよう命じる。その村人が怪我を手当てしてくれたジョンエの父だったので、キルナムは更に葛藤する。パンヤは彼の指が「撃つな!」と絶叫しているのを感じる。ついに発砲するが弾がそれたので一晩中フル装備で走らされる。

 

 

2番目の持ち主

関東軍兵士、ナム・キルナム

1928年西海で生まれる。音楽とハーモニカを愛する青年で、愛犬ソルグと共に海辺で育つ。ある日ソルグが兵士の防寒服のため連れて行かれてしまう。翌日犬たちが集められた施設を訪ねていくが、犬の姿はない。建物の裏へと入っていくと、おかしな臭いが鼻をつく。そこに積み上げられていたのは皮を剥ぎ取られた犬たちの死体だった。狂ったように走るキルナムは海にハーモニカを投げ捨てて、純真無垢な少年時代に別れを告げる。1944年に徴兵され満州に赴く。

 

自分の怪我を手当てしてくれたジョンエの村が焼き討ちされると知り警告に走るが、それを木村と部下が追う。八路軍が日本軍の奇襲と誤解し攻撃してくる。

 

ジョンエの手を引いて逃げていたキルナムは洞くつに隠れようとする。しかし、先に隠れていた木村に撃たれてしまう。防寒服となったソルグが自分を包み込んでくれているのを感じながら息を引き取る。

 

 

3番目の持ち主

八路軍戦士、カン・ソンニョ1921年白頭山で狩人の娘として生まれる。母は独立軍をかくまったという理由で焼き殺された。ソンニョも顔にひどい火傷を負う。復讐のため日本人の狩人となった父とその後を継いだ娘。1935年、東北抗日連軍(韓中合同の抗日勢力)でゲリラ活動に参加するも間島特設隊*の討伐で解体し、八路軍合流を目指す。(*主に朝鮮人兵士により組織された、抗日勢力の掃討を目的とした部隊)
雪中で銃槍を負った父が、幼い頃から語ってくれた天女の伝説を再び語り始める。故郷の月出山では年に一度地に降り立った天女が一晩中岩を踏んで帰るが、その岩がすり減って無くなれば平和な世になると言う。平和はそれほど難しい、しかし踏み続ければ岩はいつか無くなると言い息絶える。
1人になったソンニョは八路軍に合流し百発百中の活躍をする。ジョンエに寄り添うように死んでいるキルナムの側に落ちていたパンヤを拾う。
1945年の日本敗戦で国共内戦*に向かうよう指示されるが、日本人以外の敵に興味はなく朝鮮帰国を目指す。(*中国国民党と共産党の戦い)
帰国船に乗るため北京に向かい、光復軍に入隊する。変わり身の早い木村も身分洗濯のために乗船している。木村が日本軍出身で同胞を殺したのを知り暗殺を計画するが、米軍による船上武装解除で挫折。翌日木村たちの闇討ちに会い、仲間は殺されソンニョは海に投げ込まれる。
雪中に葬った父の指紋の消えた足の指を思い出すソンニョ。自分の足の指紋もすり減っていた。そうして一生懸命踏んで行くんだ、これは月出山の海の道なんだ、そう思いながら海に沈んでいくソンニョ。
ソンニョではなく、自分が海に沈むべきだったと呟き続けるパンヤ。
米軍に没収されたパンヤはソンニョの手入れが良く好判定を受け、他の武器と共に釜山から済州島に送られる。廃棄処分される他の銃がどれほど羨ましかったかわからないと語る。

4番目の持ち主
国防警備隊兵 (済州島)、ヤン・ムグン
済州島生まれ。父は木こりで母は海女。母に絡みついた大ダコを食べつくす子供が胎夢だった。少ない食べ物を兄弟に分け与え、常に空腹。垣間見た日本軍の給食に憧れて国防警備隊に入隊。銃(パンヤ)を渡されるが怖くて撃てない。新たな憧れは月に一度配給される米軍の配給品。しかし射撃ができず成績の悪い彼の口には入らない。

 

1948年、共産勢力とみなされた済州住民の鎮圧命令が下る。済州島の出身者を中心に警備隊内で反乱が起き、彼らは脱走する。その日見張り役だったムグンは騒ぎに驚き隠れる。偶然誰かが隠した配給品の箱を発見する。喜ぶ家族を思い浮べ家に持ち帰ろうとするが、山道で西北青年団(反共団体)のシンチョルに見つかってしまう。ムグンを助けたいパンヤは先に撃てと叫び続けるが、彼は撃つ代わりにビスケットを差し出す。シンチョルは躊躇せずムグンに向かって発砲する。

 

 

5番目の持ち主西北青年団、青年防衛隊 (反共団体)、ソ・シンチョル

裕福な家に生まれるが家族全員を共産党に殺され、ソウルの極右団体に入り様々な暗殺活動を行う。米軍が済州に送り込んだ西北青年団のメンバーとしてゲリラ討伐作戦に参加する。


射殺したムグンの銃パンヤを手に入れる。老若男女構わずに撃ち殺す。パンヤは苦しげに人々を撃ち続けるが、いつしか銃口を自分に向けて錯乱状態になる。


ナナはパンヤをなだめて落ち着かせる。あまりに多くの死に打ちのめされるパンヤに、銀河で武器を洗う詩を語って聞かせる。


어떻게 하면 은하수를 끌어와서 

どうしたら天の川を引っ張ってきて

무기를 씻을 수 있을까?

武器を洗えるのだろう?

어떻게 해야 하늘에 있는 은하수를 끌어와서

どうしたら空にある天の川を引っ張ってきて

칼과 방패와, 창과 갑옷을 깨끗하게 씻을 수 있을까?

剣と盾と、槍と鎧をきれいに洗えるのだろう?

다시는 전쟁에 쓰지 않도록 할 수 있을까?

二度と戦争に使わないようにできるだろうか?

어떻게 하면 은하수를 끌어와서 

どうしたら天の川を引っ張ってきて

무기를 씻을 수 있을까?

武器を洗えるのだろう?


杜甫が書いた詩だと言う。1200年前に。

 

シンチョルはその後、青年防衛隊として智異山に赴きパルチザン討伐にあたる。その後、洛東江*に配置され人民軍の砲撃で爆死する。(*洛東江は北朝鮮軍が達した最南端で激戦が行われた。)

 

 

6番目と7番目の持ち主国軍学徒兵、イ・ワンギョ

人民軍、義勇軍、チョ・アミ

父親同士が成均館で共に学んだ親友で、隣家に住む仲の良い幼なじみ。年上のアミがワンギョにピアノを教えていた。ヌナの手は綺麗だと言うワンギョ。


ワンギョの父が総督府の官吏となり、アミの父が独立運動に関わるようになると距離が生じる。それぞれの父親が反対勢力に暗殺され、2人は仇同士となってしまう。

 

ワンギョは朝鮮戦争の国軍学徒兵として洛東江で戦う。激戦で銃を失い、死体の山から拾い上げたのがシンチョルの銃だった。洛東江を生き残り鴨緑江まで北上するが、中共勢の猛攻撃に会い、包囲された廃校で部隊は全滅する。

 

ワンギョが戦死してから2週間ほど後、アミのいる人民軍が南下して学校にやって来る。アミはピアノに突っ伏して死んでいる兵士が死ぬ間際に書いた「ヌナ」という文字を目にするが、それがワンギョだとは気づかない。武器の無かった彼女はワンギョの持っていた銃を手にし、戦闘部隊に志願する。南部軍に合流し智異山に移動する。過酷な戦いが続く。

 

激しい撃ち合いの末、銃弾で指を失い死に瀕したアミの耳に「ヌナの手は綺麗だ」と言うワンギョの声が響く。


 

8番目の持ち主討伐隊、パン・ドンシク

江原道出身。智異山で人民軍として活動中、命の危険を感じ、中隊長らを射殺し討伐隊に亡命する。


死体を片付ける仕事をしている間に死んだアミの銃を拾う。引き金が取れていたので討伐隊の鉄工所に持ち込む。修理工は適当な金具を溶接して修理するが、それはホルンのバルブだった。

 

銃を手にしたドンシクは、山に詳しいパルチザン出身者を集め偽装して入り込み、人民軍を一網打尽にする計画を討伐隊長に提案する。

 

人民軍の部隊は偽装部隊に出会っても正体に気づかない。油断している人民軍部隊にドンシクたちが銃を向けようとした瞬間、ソルファの突撃隊がドンシクたちに向け発砲し皆殺しにする。

 

 

8番目の持ち主人民軍、少年突撃隊、チ・ソルファ

1948年麗水・順天事件で親代わりの兄を無残に失う。復讐を誓った11歳の少女は逃げる反乱軍についていきパルチザンとなった。親を失くし復讐心で一丸となった子供たちは少年突撃隊と呼ばれて活躍した。山で育ったソルファは野戦にたけたオオカミと呼ばれた。

 

特に聴覚に優れ、討伐隊の軍靴とパルチザンを区別することができた。加えてソルファは中隊長を殺したドンシクの顔を覚えていた。ソルファは自分の錆びた小銃を年下の少年に与えパンヤを手にする。

 

1953年になる頃には、ほとんどのパルチザンが討伐隊に倒され、ソルファはひとり生きながらえていた。彼女は終戦を知らなかった。帰順を誘う軍楽隊の美しい音楽が山々に響き渡る。しかし随分前に鼓膜が破れたソルファには何も聞こえなかった。

 

ホルンの調べが流れる。全身が反応したその時パンヤは知る。自分の引き金がホルンの一部だったことを。無残な銃声ではなく美しい音楽を奏でるホルン。しかしパンヤは感じた。軍楽隊が力任せに奏でる音楽は、楽器たちの号泣であることを。

 

食料もなく疲れ果てたソルファは銃を自分の喉に当ててホルンの引き金を引く。不発。パンヤは彼女を助けたかった。2発目。全力を尽くして耐えた。しかし、3発目!

 

死んだソルファは気分が良かった。ブルジョアの歌だからと心から締め出そうとしたが、歌いたかった歌を無邪気に歌った。爽やかに歌いながら智異山の峠を越えた。その歌声は、ただの幼い娘のものだった。

 

ぼんやりと座っているパンヤは苦し気に呟く。余りにもたくさん死んだ。余りにもたくさん殺した。



 

戦後の持ち主1956年、智異山の朝鮮人参堀りがソルファの白骨の横に残された銃と弾薬を発見。

 

1957年、人参堀りが狩人のペク・デシクに売り渡す。デシクはパンヤで獲物をしとめる。

 

1970年代、デシクの息子ギョンホが捕鯨船でクジラを撃つ。

 

賭博師となったギョンホが掛け金代わりにパンヤを出し、建設業者のイ・ジョンドクの手に渡る。

 

1980年代、ジョンドクはパンヤを建設会社のパク会長に贈る。

 

80年代後半、パンヤを前にした会長の名は、パク・マンデ。かつて関東軍で木村と名乗っていた彼は、世の波に乗り財閥の会長となっていた!

 

末娘の内縁の夫が元俳優の映画製作者。国軍と人民軍のラブストーリーの小道具としてパンヤを引っ張り出す。しかし、制作途中に浮気して蒸発。

 

パンヤはレンタル業者の小道具として休みなく撃ち続けられた。繰り返される戦いのシーン。空砲のガスで体が焼けつくパンヤは、もうやめろ、苦しめないでくれ!と叫ぶ。


2017年、小道具係のミスでリストから外れたパンヤは小道具倉庫でようやく静かに休めるようになる。


 

脚本の運命プロデューサーに作品性は認められたものの、オムニバス形式の特性上、作品を貫く主人公の不在によりスターキャスティングができず、制作費の問題もあり番組編成は困難を極める。

 

新鋭の監督が興味を示し、銃を擬人化して叶えたい夢を持つ主人公にする等、あらゆる技巧を使い尽くすがうまくいかない。

 

2年が経ち諦めた頃、最大手の制作会社が大金で版権を買いたいと申し出る。ただし、買取後は自社の作家が手を入れると言う。悩むナナ。

 

 

パンヤのふるさと

パンヤは白頭山で動物たちを守り小さなドングリを与えるコナラだった。だが故郷はそこだけではないと語る。

 

家の門、庭のポンプ、台所の釜、父さんのシャベル、教会の燭台、駅の線路、田舎の自転車…あらゆる鉄が使われた。

 

私がいなくて誰が家を守るのか、どうやって水をくむのか、ご飯はどうやって炊くのか?私がいないと大変なことになるのに、急に連れてこられた。

 

訳も分からず、みんな銃になった。あなたも私も銃になった。そうして私も銃になった。

 

 

パンヤの夢ナナは知り合いの音楽家に銃声を取り入れた音楽の作曲を依頼する。銃の専門家にパンヤを撃てる状態にしてくれるよう頼むが、古くなった銃身はあまりに痛んでいて、再び発砲したら分解してしまうかもしれないと警告される。

 

ナナが準備した演奏が始まる。実現していれば最終回となったであろうシーン。パンヤの銃声が音楽のクライマックスに溶け込む。幸福そうなパンヤ。崩れ落ちる。ドラマ、完。