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鑑賞ポイント1.公演の重要場面
原題は〈ナターシャ、ピエールと1812年のグレートコメット〉
ブロードウェイ公演そのままのレプリカ公演ではなく、台本と音楽版権だけを持ってきたノンレプリカ。同時に題名も修正されたとみられる。
原題の最初にナターシャがくるほど彼女は重要な存在。よって1幕で重点的に見るべきポイントは
ナターシャが外的要素によって
変化する過程
ナターシャの変化の原因は?答えは1曲目「プロローグ」の人物特性紹介にある。
「ナターシャは若い(幼い)。去ったアンドレイを全身全霊で愛する。」これらの単語の中で、なぜ「若い」が使われているのか。
「若い」ということは、「自分だけのはっきりした価値観と人生観が固まっていない」という意味。そして経験値も少ない。逆に言うと新しい世界、新しい刺激によっていくらでも簡単に変わってしまう状態。
なので、ソロ曲「No one Else(他の誰も)」で「アンドレイ、あなたしかいない」と歌うナターシャが、変わり始めるのが社交界にデビューするオペラシーン。
オペラは本来、高級で美しい芸術だが、ここでは声も動きもグロテスクだ。オペラ歌手たちが実際にそんな声で歌うのではなく、ナターシャの興奮と混乱が表現されている。
オリジナルでは "INTOXICATION" という単語が登場する。酔った状態、極度に興奮した状態を意味する。この状態でナターシャの目に映るのがアナトール!ファッションショーのモデルのようにスポットライトを浴びている。ナターシャの心の中でもスポットライトを浴びたと考えられる。
このように〈コメット〉の舞台上で繰り広げられるのは、現実でもあるが、人物の内面と情緒を極大化して表現する空間でもある。
オペラシーンの後、ナターシャの揺れる心にくさびを打ち込む事件が発生する。アナトールの姉でピエールの妻であるエレンがナターシャとアナトールをつなぐためにナターシャを誘惑するシーンだ。
ここで重要なのは、エレンがナターシャの首飾りを外して、自分がしていたものを着けてあげること。ナターシャの心からアンドレイが消えていくのを象徴していると思われる。この後、ナターシャとアナトールは舞踏会で再会し、炎のような恋が燃え上がることになる。
このように2幕までもナターシャ中心に話は進むが、ナターシャの悪行というよりは、彼女の幼さによる変化が原因と言える。
それでは、ピエールはどこで何をしているのか?題名に入っている彼も重要人物である。彼も変化を経験する人物だ。
金持ちだが、部屋で酒を飲み、役にも立たない本を読むだけ。妻のエレンは浮気のし放題、義弟のアナトールは借金を申し込んでくる。まさしく利用されるだけのカモ。
こんなピエールが変わり始めるのは、クラブでドロコフと決闘し、死にかけるシーンである。運よく勝利はするものの、最後に残っていた爪の先ほどの自尊心まで崩れ落ちる状況だ。そこでピエールは自分の人生を振り返り始める。自分の人生は自分のものだと覚醒する瞬間が "Dust and Ashes (埃と灰)” というソロ曲。
ここで重要と思われる歌詞が
まだ眠っているんだ。
愛する前には僕たちは
灰の山の中で眠る子供。
恋に落ちれば天使たちも涙を流す。
今日が僕の終わりなら、
僕は眠ったまま死ぬんだ。
この歌詞から、ピエールは人を愛したことがなく、戦争の勝敗はどうでもよく、愛によって幸福を感じる人だけが意味のある人生を送れると結論したのがわかる。「目覚めて、愛と共に生きる」意思を固めて、人生の意味を再確認するシーンだ。
ピエールは人生の意味を誰によって見つけるのか?ナターシャだ。
鑑賞ポイント2.プロローグのナンバー
先に触れたように、プロローグで登場人物の特性が単語ひとつで説明されている。そこに隠された意味を把握するのも楽しいと思う。時間の関係で2名だけ注目してみる。
まず、マーリャD。彼女はナターシャの名付け親、すなわち保護者だ。古臭く厳しいが親切。「ツンデレの年寄り」と言えるのでは?この単語を聞いて浮かぶのは、線を守る人には限りなく親切でだが、線を超えた瞬間暴発する、若干〈シカゴ〉のママモートン的な感じ?
次は、ナターシャのいとこで親友の、「良い子」ソーニャ。英語の歌詞でも "Good" と表現。それだけ見たらまさに「少女、good girl」「善」そのもの。ナターシャがドツボにハマって、どんな選択をするのかも知っている。それにもかかわらず、そばにいてあげる存在。これは個人的な想像だけれども、彼女の感情は友情だけだったのか?当時はそういう観念が無かっただけでは?(再度言うが、これは私の想像に過ぎません!原作でもソーニャは結婚に失敗している。)ソーニャがとても正しく優しい人物であるのは原作とも共通している。
他の人物についても考えると面白そうだ。
(鑑賞ポイント3,4に続く)