格の違う感動、魂を癒す深い響きと叙情的で美しいメロディー。パンソリからポップス、ロック、バラードなど多様な音楽ジャンルの新鮮な調和と、時空の変化を水墨の美しさで表現した舞台美術、純白の舞台を満たす映像と光の調和。
自分が進もうとする道と運命に超然と立ち向かう真のアーティスト、ソンファ。
父親ユボンのパンソリに対する強圧的執着に対抗し、自分が望む新しい音を探し出すドンホ。
自身の全てだったパンソリの完成のために、ある程度の犠牲は当然だと考える歌い手のユボン。
幼いソンファは義理の弟のドンホとともに真の歌い手の道を追う父親のユボンについて流浪する。ソリで遊び、友としてソリの道を歩き回り、互いに心を通わせるソンファとドンホ。
しかし、ドンホは父親のユボンのソリが母親を殺したと思ってユボンに抵抗し、彼を憎悪して結局自分の声を探しに去っていく。
(象徴的な死の表現が厳粛で美しい)
しかし、ソンファは父親のそばに残ってソリを完成させようとする。
やがてソンファは、ソリを完成できないかもしれないという恐怖とドンホの心配でソリを諦めようとし、ユボンはそんなソンファにハン(感情的なしこりや、痛恨、悲哀、無常観)を植え付けるため、彼女を失明させる。
50年後、それぞれのソリ人生を生きてきたソンファとドンホはまた会うことになるが···(インターパークより)
2017年に、とても人気のある作品と聞き一度観たことがある。
その時はソンファ自身のソリに対する想いとか、理解が追いつかずピンと来なかったし、歌のために娘を失明させる話だなんて、共感もできなかった。
何度も上演された〈西便制〉も、今シーズンが最後と聞き、5年ぶりの観覧。
和紙で作られているような舞台セット。奥に重なる山並みも、照明によって様々に印象を変える。
韓国の中央部を旅して目にした山々が目に浮かぶ。
舞台はもはや定番のプロジェクションマッピング。山々の四季の移り変わりが情緒豊か。
9月11日
こんなに凄い作品だったのか。
今回、ストーリーをある程度追えるようになったら、グイッと惹き込まれた。
何年振りかの生ユリアも凄かった。…と思ったが、今年の春に〈ジェントルマンズガイド〉で観たんだった。
でもこんなにガッツリ歌いまくりの主演として観たのは初めて。彼女の声を堪能できる。
自分が失明したのを知り、いっそ殺せと父を恨むソンファ。
ソリクン(パンソリの歌手)としての評価は分からないが、単に歌唱として凄すぎる。
冒頭で再会するソンファとドンホ。
幼いソンファ役のソン・アインちゃんがしっかりとした歌唱力で、天使の歌声。母を失い過酷な幼少期を送るドンホの唯一の救いであり、生涯を通じて探し求める存在なのがうなずける。
幼いソンファが歌う「살다보면 (生きていれば)」に重なって響く年老いたユリア・ソンファの低い声が、歌うにつれ明るくハリのある声に変わって行く。
その声で時が巻き戻っていく。
9月17日
ああ、ジヨンさん。この声、この声よ。と歌い出しから感激。
がしかし、メモらない感動は空の彼方に消えて行ったのであった。
個人的に、何かに人生をかけるのは命をかけるのに等しくて、命は何かにかけるためにあるのではないと考えているので、ユボンやソンファのようにソリのために全てをかけるのは、ソリの呪詛に囚われているようにも思えて、とても美しい作品がひときわ悲しく感じられる。
BBCHホール周辺。11日の空。
17日の空。
9階の屋上庭園から。
(狎鷗亭のBBCHホールから漢江を超えてソウルタワーが見える。)