
そういう意味では、上のようなハイライト場面だけを見てしまうと、疲れる作品だなと判断されそうですが…ちゃんと楽しい場面もありますよ。
(1/6)では聴力を失いつつあるルドが、こめかみに銃口を当てるというシーンで終わり、マリーとバルトが駆け込んでくる(2/6)に続きます。
マリーに突き飛ばされたルドが床の上を一回転するところでいつも笑ってしまう。膝をぶつけた時の「あっ」が絶妙。
マリーを演じるキム・スヨン。うまいなぁと思います。この辺りはまだ溌剌としたマリー。
結局バルトと別れることになる(2/6)の最終部分から、バルトの死を知った後にルドウィクを訪ねる(3/6)のシーン。
断ったのを責めるつもりかと問うルドに、どうしても感情が抑えきれず「違います…はい」と口走ってしまい、ついには「教えてくれれば良かったのに!」と絶叫してしまうあたり、秀逸です。
「私は諦めない!」というスヨンマリーには、人生を諦めているルドウィクを立ち直らせるパワーが確かにあります。
彼女のシーンでもう一つ印象に残っているのは、(4/6)で15年後に男装して現れるシーン。女であることを隠して建築家として成功するチャンスを掴んだ彼女に、ルドウィクがかけた言葉は「それは嘘じゃないか」
ルドは責めているのではなく、嘘をつき続けるのは辛いと心配しているのだけど、その時のマリーの表情がなんとも言えなくて忘れられない。
きっとたくさん壁にぶち当たって、溌剌としてばかりはいられない年頃のマリー。嘘をついている事実は誰よりも重く受け止めていて、けれど奥深くに隠してあった複雑な感情がルドの言葉で表に出そうになってしまった顔、とでも言おうか。
(4/6)の最後で「嘘をついている。だけど恥ずかしくない。私は戦う用意ができているのに、男たちに戦う用意ができていない」と叫ぶあたり、マリーはもう1人の主役級と言うに相応しい迫力です。
ルドウィクの養子になった甥のカール。本来ならルードビッヒであるおじさんをルドウィクと呼んだ張本人。無理やり音楽をさせられて精神的に限界に来ています。
書き忘れた。"ベートーベン"に教えてもらえるのは特権だとルドは思っているけど、カールにとっては星のように手の届かない音楽家と一緒にいる不幸なんですよね。カールが自発的にソナタを作曲した時、ルドが例としてバイオリンソナタを聞かせるシーン。
ハッと振り向くカール。カールにはその素晴らしさが分かるから、自分の音楽のつまらなさを余計に感じてしまう。不幸だ。
音楽をやめたいと訴えるカールに、お前のための曲だと言って交響曲第9番「歓喜の歌」を聞かせるルド。素晴らしい音楽が、歓喜に満ちたコーラスが、皮肉にも絶望の響きでカールを打ちのめし、自らに銃口を向けさせる結果になるのが鳥肌モノでした。
引き金を引くときにカールが叫んだ名前は「ルードビッヒ!」
「ルドウィクおじさん」と呼んでも聞いてくれない人を「ルードビッヒ」と呼んだのは、そこにいるのが自分を愛してくれるおじさんではなく、天才音楽家のルードビッヒだったからでしょうか。
その辺、ヴォルフガングとアマデの関係性を彷彿とさせます。
作品のタイトルが〈ルドウィク〉なのはどうしてなんだろう。人間ベートーベンを描いているからかな。
老人ルドウィクを演じるテイさんは歌手出身だそうで、若い頃の映像を探していたら代わりにこんなのを見つけました。
不朽の名曲に子役のゴヌ君と一緒に出演した時のもの。ゴヌ君が劇中のピアノをここでも披露しています。小芝居をする2人が可愛い。
素のテイさんの歌声がとでもロマンチックで素敵です。うっすら予想はしていたけど、結構好きかもしれない。
年寄りの姿勢、歩き方をとても工夫されていて、子供のカールを追いかけて引っ込んだ時と、成長したカールに付いて登場する時は、瞬時に歩き方が歳とっていたので感心しました。
ゴヌ君は元気のあるバルト、カールでしたが、チャ・ソンジェ君はもう少しお利口さんな雰囲気でした。
ピアノの曲は子役君によって違うみたいです。↓2:55くらいから。
子役君たち。歌が歌えて、演技ができて、ピアノまで弾けて。 末恐ろしい。