若くイケメンだが確かな腕、かねさか系列の新店「すし家 祥太」 | じきの食歴

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そんな美味なる料理やお酒の記録を食の歴史として記しておこう

IT健康保険加入者のための寿司屋で、加入者ですらなかなか予約の取れない「赤坂一新鮨」。
こちらミシュラン2つ星の「鮨 かねさか」の系列店なのだが、そこで握り手をしていた翔太さんが、かねさかの大将にその腕と人柄を見込まれて新たに店を1軒まかされた。
「すし家 祥太」
名前の画数が良くなかったとのことで、かねさかの大将の意見を尊重して「翔太」から「祥太」へと名前を変更しての再出発。
実は祥太さんは韓国出身の方で、これは日本での名前。元の翔太もかねさかの大将が付けてくれたもの。

彼の来歴を簡単に紹介すると、物心がついたころ、韓国語に翻訳され出版された「将太の寿司」を読んで感銘を受け、鮨屋になることを決意したと言う。
東京に出てきて、どこかで修業しようといくつかの鮨屋を食べ歩いたけれど、当時日本語も満足に話せない彼に門戸を開いてくれる店は無かったという。
そして、いよいよ資金も尽き帰国しようと思った最後の日、折角だから高級鮨も食べて帰ろうと思い立ち寄ったのがかねさかだった。
そこでかねさかの大将と知り合い、うちで働かないかということになり、そのまま会社の寮に入り、日本で鮨の修業を始めたという。
それが、20代前半のこと。
その後、数軒かねさか系列の店にて修業をし、「赤坂一新鮨」では2番手としてその腕を振るっていた。
そこで、彼にとって憧れであり、彼の人生を大きく動かした「将太の寿司」の寺沢大介さんと知り合うことになり、ほどなくして今回の店をまかされるようになった。
32歳という若さで、である。

そんな彼の店「すし家 祥太」に、オープン初日の11月23日に寺沢先生と一緒に訪問させていただいた。
店の場所は、麻布十番の1番出口から徒歩2分という好立地。
元は、その建物付属の1台分の駐車場だった所を店舗にしたそうだ。
店内はカウンター7席で、真新しい白木のカウンターからは、いい香りが漂っている。
正面には魯山人の画が飾られており、店の一番奥…カウンターに向かって左側の壁にもやはり魯山人の皿が額に入れて飾られている。シンプルだが、品の良い内装だ。
こちらの店は、昼夜共に、おまかせの13000円のコースのみで、つまみ2種類に握り14貫、巻物に汁物とたまごとなっている。
オープン初日は、前の勤務地の大将が応援に駆け付けてくれたそうだが、今後はこの店を祥太さんと、サービスの方の2名で回していくとのことで、つまみもあまり種類を作れないため握り中心のメニュー構成となっている。
昼の価格を下げなかったのは、昼と夜とで同じ品質のものを出すからだと言う。
確かに、夜13000円というのは昨今の鮨屋としては安い部類に入る。
無理して昼の値段を下げるのではなく、昼も夜も同じように安く提供したかったからなのだろう。

そんなことを色々と話しているうちに参加者も揃い、「すし家 祥太」の初営業が始まった。
予定通り、つまみが2種類出てくる。
いずれも上品な味付けとなっている。
ガリは、生姜をまるごと漬けたものを、都度厚めにスライスして提供される。
これがまた旨い。
握りは、少し固めのシャリで、酢のあたりは柔らかい。これはシャリの温度を少し高めにしているので、それにあわせてのことだろう。柔らかいあたりでありながらも、酢飯としての存在感がある。
14巻を通しての流れも良く、ネタとシャリのバランスも概ね良かった。
巻物を手渡しでいただいて、たまごをいただく。
たまごは、カスタードクリームを固めたかのように滑らかで卵の旨みを感じさせる。
最後の汁物は、余所との差別化として、よくあるようなしじみ汁ではなく、ネギ間汁を出すことにしたそうだ。
うん、これもいいのではなかろうか。

始めての客7名に対して、予定時間の2時間でちょうど出し切った。
全員とまんべんなく会話もして、全体の流れも良い。
一通りコースをいただいて、稲荷寿司と干瓢巻とたまごのお土産をいただいた。
これに3合ぐらいお酒を飲んで18000円ぐらい。
麻布十番でこの内容で、この値段。初日で仕入れ等頑張ったというのもあるのだろうが、これでやっていけるのだろうか。
実は、この直後にもう1軒「鮨はしもと」へと足を運んだのだが、橋本さんも祥太さんのことを知っていて、「海外の方で日本に来て修業して、この若さで1軒店をまかされるまでになった人って初めてじゃないでしょうか。頑張ってもらいたいですね」とエールを送っていた。

「ほんと、ラッキーでした」
鮨をつまんでいる間に、祥太さんがそう何度も言っていた。
握りも上手だし愛想の良い笑顔に話好きとあれば、いずれ店をまかされることもあっただろうが、まだ若干32歳でここまでの店をまかされるとは夢にも思っていなかったそうである。
確かに、色々な出会いというのはラッキーだったかとは思う。だが、様々な経験と、天性の才能と、人一倍の努力が結実したからこそ、少しばかりのラッキーが大きく実ったのだろう。
これからが楽しみな店がまた一軒できた。

 

 

すし家 祥太寿司 / 麻布十番駅赤羽橋駅
夜総合点★★★★ 4.5