「リストランテ マッサ」での「マッサ×ラッセ コラボディナー」 | じきの食歴

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世の中には、美味しいいもので溢れている。
そんな美味なる料理やお酒の記録を食の歴史として記しておこう

2000年の2月29日にオープンし、来年20周年を迎えるイタリアンレストランがある。
飲食店で20年というのは、本当にごく僅かで、その生存率は0.3%という。
恵比寿にある「リストランテ マッサ」
オーナーシェフの神戸勝彦さんは、「料理の鉄人」でイタリアンの鉄人としても活躍された人。
フィレンツェにある「エノテカ・ピンキオーリ」等で修業し、帰国後は西麻布「アル・ポルト」などで修業し、独立。
店名のマッサは、イタリアでのシェフの愛称だ。

2020年は、素敵な年になるだろう。
シェフだけでなく、店のスタッフ達、そして常連の客達もそう思っていたに違いない。
だが神戸シェフは、その20周年を目前に、2019年3月14日、仕込み中に高所から転落し、49歳という若さで他界した。
無念だったと思う。
そんな中、神戸シェフが無くなり茫然自失のまま病院から店に戻った奥様のかをりさんを迎えたのは、店のスタッフ達だった。彼らは、皆で店を続けたいと申し出てくれ、その言葉に背中を押され、店を継続することを決めたという。
新しいシェフには、吉田洋平シェフが引き継ぐことになった。
吉田シェフは、高校を卒業しそのままマッサのオープニングスタッフのひとりとして貢献した人物で、マッサで6年間の修業後、イタリアにて修業。
その後、日本に戻っていくつかの店でシェフを経験していたのだが、神戸シェフは彼の勤める店には必ず顔を出し、いつでもマッサに戻って来いよと声がけしていたほど、彼の腕を信頼していたそうだ。
吉田シェフもそんな神戸シェフの熱いラブコールに応え、3年前から再びマッサでシェフをしていた所だった。
神戸シェフの思いを継いで、新たに20周年に向けて動き出したマッサだが、閉店するといった誤った情報が出回り、予約のキャンセルが相次いでしまい、苦境に立たされてしまった。

そんな中、一人のシェフが立ち上がった。
ミシュランの星付きレストランである「ラッセ」の村山シェフ。
「料理の鉄人」に出てた神戸シェフにあこがれ、影響を受けた一人である。
そんな村山シェフが若かりし頃、マッサを訪れ食事をとった所、若いのに頑張ってるねと、神戸シェフがお代を取らなかったことがあったそうだ。
その後、神戸シェフが村山シェフに店に伺い、今度は自分がお代を取らない番だとばかりに受け取りを拒否したが、神戸シェフが帰った後にはテーブルに正式な代金以上のお代が置かれていたそうだ。
いつか、このご恩返しをしなければと思いながらも年月を重ね、そして今回の訃報があった。
受けたご恩を返さねばということで、苦境に立たされたマッサを救うべく、コラボの食事会が持ちかけられた。
それに賛同したのは、食の重鎮であるマッキー牧元さん。
そして、今回のイベントには、「精肉店 サカエヤ」の新保吉伸さんが肉を用意してくれた。

会の冒頭、村山シェフから「受けたご恩はリストランテ・マッサにお返しします。僕が料理人である限り返し続けます。」と熱く語り、奥様のかをりさん、吉田シェフも涙を流す。
奥様のかをりさんからは、マッサのスタッフ皆でこれから盛り上げていこうと思ってた所に誤った情報でキャンセルが相次ぎ、皆に申し訳ない思いでいっぱいだった所、村山シェフやマッキーさんの働きかけでこのような会を開催していただきありがとうございますと述べ、これからのマッサを応援して欲しいとの言葉があった。

そして1分間黙祷をして、マッサとラッセのコラボディナーが始まった。

■前菜
マッサ
鹿児島経産牛肉のカルネクルーダ
近江牛タンのサルサヴェルデ
鳥レバームース

ラッセ
ランブレドット フェオレンティーナ
三元豚 ピエディーニ キャベツ煮込み
豚頭のソプラッサータ

■パスタ
マッサ
カボチャのトルテッリ ゴルゴンゾーラソース

ラッセ
三種のチーズのラビオリ

■メイン
マッサ
近江牛ほほ肉の赤ワイン煮

ラッセ
石田めん羊牧場の羊のサルシッチャ

ラッセ
鹿児島産経産牛のサーロイン炭火焼

■ドルチェ
マッサ
アールグレイの香りクリームブリュレ

ラッセ
アマレッティ セミフレッド


前菜の料理は、一品一品が、どれも本当に美味しい。
骨太でありながらも、繊細で優しい味付け。
パスタのトルテッリは、神戸シェフの味を受け継ぐもの。
前後の料理に寄り添うような優しい味付け。
ラビオリは、ラッセにて9年修業されている渡邊理奈さんが作ったもの。
口に含むと、包んでいる生地が具材と一体化する。
メインは、新保さんの肉を二人のシェフが調理したもの。
間違いが無い。
赤ワイン煮は、やわらかく旨く深みがある。
絶妙なるバランスで味付けされ煮込まれている。
そこにサルシッチャのダイナミックな味わい。
下に敷かれたポレンタとの組み合わせもまた良かった。
サーロイン炭火焼もまた、見事な火入れ。
噛みしめるごとに旨みが増していく。
〆のデザートも抜かりない。
王道でありながらも、一工夫が凝らされている。

満席で、全員に同時に料理を出していくのは、非常に大変なのだが、流石19年のキャリアがある店だけあって、滞りなく料理も出てくるし、スタッフの対応も非常に好ましい。
実にいい店だ。
奥様のかをりさんの言葉にこういうものがあった。
「マッサを可愛がってくださるお客さまを一人でも多くお迎えし、マッサに行くと幸せな気持ちになれると思ってもらえる店を目指しています。お客さまに喜んでいただけることで、自分たちも幸せを分けていただけることは、本当に素晴らしいことだと思います。」
神戸シェフが居なくとも、彼の思い描いていた姿がここにはある。
そしてその思いは、継承され進化してさらなる高みへとたどり着くのだろう。
そんなことを思わせるような、素敵なディーなーだった。

 

 

リストランテ・マッサイタリアン / 恵比寿駅広尾駅
夜総合点★★★★ 4.5