さよなら、ホテルオークラ別館「ラ・ベル・エポック」 | じきの食歴

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今年のホテルオークラ新本館開業に伴い、ホテルオークラ別館もその営業が終了するそうで、客室等は来年のオリンピックまでは利用継続するものの、内部にあるレストランのいくつかは本館に移転し、いくつかは閉店になると、突然の告知があった。
別館事体は、2021年に完全閉館となり、2024年度をメドにタワーマンションになるとのこと。
そんな中、急なことではあるが、1973年11月26日の開業当時から12階にて営業されていたフランス料理レストラン「ラ・ベル・エポック」も今年8月18日をもってその46年の歴史を閉じ、内容を大きく変更し「ヌーヴェル・エポック」として新館にてリニューアルオープンすることになったそうだ。
どういったレストランとなるのかは、まだ不明だが、「ヌーベル」と付くだけに、今までのクラシカルな王道のフレンチから、モダンフレンチの店になるのではないかと予測される。

そんな急な動きのある中、今回、オークラ常連でホテルの方々とも懇意にされている MIKA嬢 さん主催で特別に開催された(させた?)別館館内ツアーおよびラ・ベル・エポックでのランチ会に参加してきた。

先ずは、オークラ別館内をホテルの方に案内してもらう。
入ってすぐの、棟方志功作のレリーフの案内に始まり、別館開業時にオープンした日本で初めての会員制スポーツクラブであるオークラヘルスクラブ、宴会場や会議室、ワインアカデミー、ブライダルコーナー、囲碁クラブ、駅への近道になっている竹林等を案内していただいた。
高度成長時代に建てられた別館は、調度品はもちろんのこと、壁紙や照明、エレベーターの天井の装飾等も見事だった。

そして、「ラ・ベル・エポック」でのランチ。
今回は、ワイン会等でも用いられる個室での開催だった。
入ってすぐ目の前には、葡萄畑の大きな絵が飾られている。どうやらロマネコンティの畑らしい。
まずはシャンパンで乾杯し、料理をいただく。

始めは、トマトのムース仕立てで口をさっぱりと。
前菜は、4種。サーモン、ジュンサイ等のテリーヌ、ハムにジュレ。
とうもろこしの冷製ポタージュが出て、メインの太刀魚のムニエル ツブ貝の風味をまとわせたトロナス添え。クラシカルで王道な料理。
アヴァンデセールは、上にベルローズがあしらわれておりとても綺麗だ、

そして、最後はデザートして名物のクレープシュゼット。
目の前で熱したフライパンでバターやオレンジジュースでソースを作り、クレープを浸してソースを染み込ませる。
そこに螺旋の紐状に切ったオレンジの皮にコアントローベースのカクテルを伝わせてフランベを行う。
青白い炎がオレンジの皮に沿ってフライパンの中に吸い込まれ、やがてフライパン全体から炎が立ち上がる。
なんと優雅で美しい所作なのだろうか。
ちなみにこれは、レストランサービスの技能グランプリの課題としても出てくるデザートでもある。
炎が収まると、皿に取り分けてくれるのだが、それも蝶のように見えて美しい。
最後に、すり下ろしたオレンジの皮をかけて香り付けして完成。
オレンジの香り、酸味。そしてバターの豊かな風味。
その店のレシピとソムリエの腕によって完成する一品。
ちなみに今回使った、クレープシュゼットを作る台も新店には引き継がず引退となるらしい。
実に名残惜しい。

次の予定があるため、自分は一足先に失礼させていただき、先ほどの竹林を通り抜け駅へと向かった。
緑に囲まれた石段を下りながら、そう言えば、9月12日に新しく生まれ変わる「ヌーヴェル エポック」では、日本とフランスの食の融合をテーマとして健康と美食を備えた“ヘルシー&ガストロノミー”を目指すのだというのを思い出していた。
和食が文化遺産として登録され、オリンピックも開催され、海外からの客を意識しての舵取りなのであろうが、日本で食べるクラシカルなフレンチの文化がまた一つ無くなるというのも、そこはかとなく物悲しく感じさせる。
竹林の中で立ち止まり空を見上げる。緑の葉の間から見える空は青く、蝉の声がしみ込んでいった。

 

 

 

 

フランス料理/ワインダイニング ラ・ベル・エポック / バロン オークラフレンチ / 神谷町駅六本木一丁目駅溜池山王駅
昼総合点★★★★ 4.0