物語の中を彷徨う料理「セララバアド」 | じきの食歴

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世の中には、美味しいいもので溢れている。
そんな美味なる料理やお酒の記録を食の歴史として記しておこう

卓上には、コピー用紙を折りたたんで作られた、小冊子が置かれていた。
その中には、セララバアドの物語が綴られている。
セララバアドは、宮沢賢治の「学者アラムハラドの見た着物」という作品に出てくる小さな生徒の名前で、この作品は物語が途中で終わっている。それが意図したものなのか、未完であるのは不明であるが、この卓上に置かれた小冊子にかかれている物語は、この店「セララバアド」のオリジナルである。
いつもなら、メニュー構成から料理の流れについて事細かに書くのだが、ここの料理については、そんなものを書くのは野暮だろう。
橋本シェフの世界観は、その場に居なければ、その魅力の1/10も伝えることができない。
それは、今回のようなメニューの魅せ方であり、料理毎に移り変わる店内の音楽であったり、刻一刻と変化する様を楽しむ料理であったりと、五感全てに訴えかけてくる料理だからである。
それでもあえて、いくつかピックアップしてみると…

最初に出てくるのは、この店の名物ともなっている枝のようなもの。
これには、生ハムが巻き付けられており食べることができる。

蓮の葉の上には、雨水が水滴となってたまっている。これで、のどを潤す。
ぷちりと弾けた後には、口の中にジュンサイがぷりりと口に残る。

そのガラス箱では、海底の様子が再現されていた。
え?これどれが食べれるの?というような、ムール貝に見せかけたスナック。
その隣に置かれた貝殻を耳に当てると…リアルに潮騒の調べが聞こえてくる。
そんな海底には、瓶に入れられた本当のメニューが隠されていた。

夜空を砕くと、その向こうには海生類が生息している。

透明なスプーンを空にかざすと蛍が舞い、紫陽花は、紫色からピンクへと変色する。

ポエムのような表現だが、橋本シェフの料理を表現すると、このような文章になってしまう。
そんな確固とした世界観のある料理。
そうそう、肝心の味の方も和風な食材や味付けを取り入れるようになって、実に旨くなってきている。
オープン当初の手探りで試行錯誤していたものが、今では実に堂々としたものとなってきている。

なお、この日も自分の誕生日が近いということで、バースデープレートを出していただいた。
ガトーショコラだった。
うん、実に旨い。

全ての料理をいただき、食後のコーヒーと共に、この日の料理を振り返る。

宮沢賢治の作品の中で、先生であるアラムハラドが問いかけた「人が何としてもそうしないでいられないことは一体どういう事だろう」というものに、セララバアドはこう答えた。
「人はほんとうのいいことが何だかを考えないでいられないと思います」と。

橋本シェフは、様々な手法を使って人を驚かせ、喜ばし、人が人であることを楽しんでもらうために料理を作っているのだろう。
セララバアドの答えを思い出しつつ、そのように感じた。

セララバアドイノベーティブ・フュージョン / 代々木上原駅代々木八幡駅代々木公園駅
夜総合点-

セララバアドイノベーティブ・フュージョン / 代々木上原駅代々木八幡駅代々木公園駅
夜総合点★★★★ 4.5