これは、飴細工で出来た白薔薇。
誕生日祝いとして、常連予約時に出してもらえるものだ。
今回は、自分の誕生日が近いということで出していただいた。
2007年にミシュラン東京が始まって以来、常に3つ星を取り続けているレストラン「カンテサンス」。
シェフの岸田周三さんは、幼少からシェフになるのが夢だったと言う。
高校を卒業して、中学の時に初めて食べたフレンチで感銘を受けた三重県志摩観光ホテルの「ラ・メール」にて修業を開始。
その後、「カーエム」を経て渡仏し様々な店で修業を積みパリの三つ星レストラン「アストランス」ではスーシェフにまで登りつめた。
国内に戻り2006年に今の店を開店し、その翌年からミシュランの常連となっている。
特に「アストランス」にて身に着けた火入れの技術は素晴らしく、これこそが彼の真骨頂とも言えるものだろう。
そんな岸田さんの料理は、伝統的な料理であるようでいて現代的な料理でもある。
今回の料理は、下記のようなものだった。
アーモンドパウダーのサブレとフォアグラ
オマール海老と獅子唐のスープ
山羊のミルクのババロア ゆりねとマカダミアナッツー
馬肉もも肉とセンマイのタルタル
穴子と絹さやのクレープ包み
バスク豚のスペアリブと空豆
クエ 水菜とドライトマトのソース 蕗の中にパスタ
シャラン産鴨 フォンドボーのソース 白インゲンと青唐辛子
シャルトリューズのソルベと夕張メロン
ココナッツのブラマンジェ 西瓜とライチ
ガトーノワゼット オールドアマレットのクリーム ヘーゼルナッツ ガトー仕立て
メレンゲのアイスクリーム 能登半島の海水
最初のアミューズは、軽いお菓子のようなもの。そこからスープに。
スープは、海老の存在はあるのだが、それも全体の一部となっており、他の野菜類と混然一体となり調和している。強い海老の旨みとさっぱりした獅子唐の清々しさが、胃を整えてくれる。
その後は、岸田さんのスペシャリテである、山羊のミルクのババロア。
ゆりねとスライスされたマカダミアナッツが乗せられている以外は、オリーブオイルと塩のみといったシンプルな味付けだが、季節によってその配合等を変えている。
「これ、お茶碗いっぱいに欲しいよね」という言葉が交わされる。
馬肉のタルタルが出て、穴子フリットと絹さやのクレープ巻き。
これは、自分の手で巻いて食べる。
そば粉の香りと穴子の芳ばしい香り。ああ、これは穴子蕎麦のオマージュなのかもしれない。そんな料理。
バスク豚のスペアリブには、鳩レバーのソースがかかっている。豚に鳩。しかもレバーという組み合わせは面白い。いや、面白いだけじゃなく旨い。
こんな見事な組み合わせがあったのかと感心もするが、これを調和させる高度な味覚と技術があってこそなのだろう。
そして岸田さんの真骨頂の魚の焼き物。今回は、クエを焼いたもの。これが、皮の部分だけパリリと硬く芳ばしく、身の部分はしっとりと柔らかい。どうやったら、こういった火入れができるのだろうか。
ソースには、水菜とドライトマトを使ったさっぱりしたもの。付け合わせには、蕗の中にパスターを差し込んだもの。
そしてここで、同席されていた嘉門タツオさんが言った。
「これ、岳さんの器じゃないか?」
と。
どうやら、富山県の陶芸家「釋永岳」によるものじゃないかとのこと。
先日訪問して岳さんさんとは面識があるそうだ。
続いて出て来たのは、シャラン鴨。これはフォンドボーと白インゲンと青唐辛子のソース。青唐辛子がいい仕事をしていて、微かな辛味が舌を軽くさせる。
ちなみに、こちらも岳さんの皿のようだと言う。
店の人に聞くとその通りで、このあともう1皿、岳さん作の皿が使われているとのこと。
皿見て作者が分かるなんて、本物の文化人は、やはり違うなぁと感心しきり。
そしてデザート。
カンテサンスにはパティシエは居ない。全て、岸田シェフによるもの。
先ずは、シャルトリューズのシャーベットにカットされた夕張メロンが乗せられたもの。
スイカとライチにココナッツのブラマンジェ。共にダイス状にしたものの上にエスプーマとして。
そしてガツンとくるヘーゼルナッツ ガトー仕立て。だが、ここまできても全体として思いという感じがしないのが岸田さんの料理。
そして最後のデザート。ここでも岸田シェフの定番、「メレンゲのアイスクリーム」。これには、能登半島の海水が用いられている。
メレンゲを焼いたものを崩してパウダー状態にしたものを使って作られたアイスクリーム。
余韻の残る風味。何度でもいただきたくなる味。
そして表題の飴細工の白薔薇。
数年前にも作ってもらったが、さらに完成度が高まっているようだ。
実に素晴らしい。
ああ、終わってしまった。
実に素敵で満足感の高い料理とその流れであった。
なお、今回は通常のペアリングではなく、白2本、赤2本で何本かづつお店側に提示してもらいこちらで選ぶというスタイルでワインをいただいた。
これもいい具合に働いたのだろう。
なお、お店のホームページには、こう書かれている。
『新しい形の「キュイジーヌ・コンテンポレーヌ(現代的な料理)」を創造するとともに「次世代のスタンダード」を目指し、これからもお客様をお迎えいたします。』
と。
世界的にも評価の高いこの店は、伝統を守りながらも昔とは違う現代の食材の質とコンディションを元に、次世代のスタンダードとなりえる料理を常に編み出している。
最後に出されたアイスクリームのように、創造して破壊して再構築する。
これが、岸田周三の哲学なのかもしれない。