昨夜はお風呂上がりに手術痕から大量出血。
首をつたって肩、胸のあたりまで血まみれになっているのに全く気付かず、歩き回って服を汚してしまった。

妻に確認してもらったところ、タオルで勢いよく拭き過ぎて、お湯でふやけた瘡蓋(かさぶた)を剥がしてしまったのだろうとのこと。
すでに出血も止まり傷口もごく小さいようなので、「じゃあ、いいや」と呑気なふりをする。

口には出さないが、妻はきっとオレ以上にオレの身を案じているので、不安げな姿はあまり見せたくない。

驚かせて悪いことをしてしまった。


居間では82歳の父親が黙々と文書作成中。
半年前にメルカリで購入したNEC製ワープロ「文豪mini」を駆使して、お寺役員の引き継ぎ文書を朝から晩まで打ち込んでいる。

さっきまで血をダラダラと垂らしながら父の前に座って会話をしていたのだが、気付かれなくてよかった。

血まみれの息子に気が付かない父親と、自分が血まみれなことに気が付かない息子。

なかなかシュールな絵面だったと思う。


放射線治療はもうすぐ折り返し。

喉の痛みは小康状態を保っているが、味覚が完全に狂っている。具体的には舌の奥の方で、常に苦味を感じているような状態。
妻の調べによると放射線治療ではポピュラーな症状のひとつとのことで、いろいろ試してみた結果、甘いものを食べた時に特に強く苦味を感じるようだった。

職員課から保健指導の通知が届いていたので、甘いもの断ちにちょうどいいかも知れない。生活改善のよい機会だと前向きに受け取ろう。

と思っていたら、妻が「カロリーの高い食べ物を」と言って、甘いものやフルーツを山ほど抱えて帰ってきた。
噛み合わないなぁ…。

でも今後食べられなくなる可能性を考慮すると、食べられるうちに食い溜めしておくのも悪い選択ではなさそうだ。

そう思って夕食後にケーキを食べたのだが失敗。
アルミホイルを噛み締めた時のような酸味と苦味の合わさった不快な味が喉の奥まで広がって、なかなか飲み込めない。


放射線科のK技師によると、稀に全く味覚が狂わない患者さんもいらっしゃるそうだが、オレはその他大勢の狂うタイプに含まれているようで残念。

でも治療が終われば味覚は戻っていくとのことなので、それまではせいぜい修行に励むこととしよう。