6日目あたりから感じていた喉の違和感が、明確な痛みへと変化している。
まだ食べものが飲み込めないとかそういうレベルではないのだが、フライの衣が喉に擦れたり熱いものが滲みたりするようになった。

親しくなった放射線技師のKさんに相談したところ、
「そろそろ出始める時期ですねぇ」
とのこと。

「でも右肩上がりに痛みが増していくわけではなくて、最初にドーンときてからしばらくは小康状態が続くみたいですね」
と言われたので、それが1日でも長く続くことに期待しよう。

書いててふと、この病院でオレに関わる人は全てKというイニシャルであることに気が付いた。
主治医の青年K医師。
羽生善治似の放射線科K医師。
タカラジェンヌのような口腔外科のK歯科衛生士。
キュートなナースK看護師。
気さくな坊主頭のK放射線技師。

願わくば、これ以上受診科が増えて新たなKに出会うことの無いよう。


もうひとつ気になっているのは、ずっと続いている吐き気だ。
放射線の副作用ではあまり出ない症状らしいのだが、今週に入ってまた出始めた。

喉の痛みは今のところ食事中限定の痛みなので辛抱できるが、吐き気は1日中続いているのでタチが悪い。
また吐き気のせいで食欲が下がってきていることも気にかかる。

放射線治療で毎朝顔を合わせていたオヤジの服装が最近私服から病院のパジャマに変わったので、思わず数週間後の自分の姿と重ねてしまった。


いかんいかん。
S園長や妻からも「近頃ネガティブな発言が多い」と言われているので、思考のベクトルを180度変える必要がありそうだ。

オレは最後まで通院治療で通してやるぞ!
あんな漂白されて色の抜けたパジャマなんて着てやらないからな!


終業後、寮生活をしている娘を迎えに高校へ。

高校生くらいになると女の子は父親と疎遠になるという話をよく聞くのだが、娘にはそういうところが全く無くてありがたい。
オレが寝ていると、
「父さんはかわいいなー」
と言って頭をポンポンされたり撫でられたりしている。

ちょっと扱いがおじいちゃんのようになってないか?と思うこともあるが、邪険にされるよりはずっといいだろう。


お風呂上がり、妻と3人でカフェオレを飲んでいると、ふいに娘が、
「私が北海道の大学に行きたいって言ったらどう思う?」
と聞いてきた。

オレは思わず、
「そんな遠くには行かせたくないなー」
と答えてしまったが、言った後で後悔した。


オレはちょうど今の娘くらいの頃、絵の指導をして頂いていた師匠に、
「お前の絵には光るものがない。絵で飯が食えるのは限られたごく一部の特別な人間だけだ。ちゃんとした仕事に就いて、絵は趣味で楽しめ。」
と言われて、絵描きになりたいという夢を諦めた過去がある。

その時は尊敬している師匠が言うなら自分の才能はその程度なのだろうと納得したつもりだったのだが、実は「あの時何故、挑戦もせずに諦めてしまったのか」という思いを30年経った今も引きずり続けているのだ。

チャレンジしなかった後悔は一生続くということを身をもって体験しているので、子どもたちにはなるべくそういう思いをさせたくない。


今日は吐き気がひどくて話し合いから早期離脱してしまったが、土日のうちに改めて気持ちを聞いてみようと思う。
一緒に焼き芋でもしながら、世間話のように聞いてみよう。