放射線治療は2週目に突入。
週末はダメージの蓄積かそれとも気分的な問題なのか、気持ちも食欲も下降気味だったが、土日を挟んで回復した。
まだ全体の1/6が終わったところなのに、こんなメンタルでは先が思いやられる。
本日は20日ぶりに、主治医である青年K医師の診察日。
朝イチで照射を終え、受診科へ移動する。
放射線もまだ序盤なので今日の診察はスムーズに終わると思っていたのだが、頬の内側に歯が当たって粘膜炎症を起こしているとのこと。
腫れたところに歯が干渉しているそうだ。
魚を骨ごと食べないとかエビフライの尻尾を食べないなど、小さな傷も作らないようささやかな努力をしていたのでショックは大きい。
やむなく院内の口腔外科を受診することとなった。
ちなみに「今後はせんべいなどにも気をつけろ」だって。
気落ちしていると、入院中お世話になった看護師のKさんに遭遇する。
Kさんにとっては自分の職務を遂行しただけなのだろうが、オレは助けてもらった恩義のようなものを感じていたので、
「入院中は、夜中にわざわざ目の軟膏を入れに来て下さってありがとうございました」
と謝意を伝えると、
「もう覚えてないだろうと思っていた」
とのこと。
別れ際、ペコリと頭を下げるとバイバイと小さく手を振って業務に戻っていった。
なんてキュートなナースなんだ!
口腔外科では干渉している歯の角を少し削り、これから処方される薬とその使用法について、チャート式で書かれた図を元にレクチャーを受ける。
食前、口腔内の炎症部分に塗り込む軟膏「エピシル」。
食後に塗布する保湿剤「マウスケア」。
その後行う漢方のうがい薬「半夏瀉心湯」。
その後塗布する保護軟膏「アズノール」。
これら4種類の薬を常に携帯し、食前食後のケアを行うようにとのこと。
面倒と言えば面倒だが、食事が出来なくなる方がもっと嫌なのでこの程度のことは気にしない。
幸い炎症もまだ初期段階で対応可能とのことなので、「見つけてくれてありがとう」という感じ。
11時、処方箋を持って病院の前にある院外薬局へ行ったのだが、ここで少し嫌な思いをした。
名前を呼ばれてカウンターに行くと、出てきたおばさん店員が薬をひとつずつ眺めながら、
「どうされたんですか?お怪我ですか?」
と聞いてきたので、
「いや、病気の治療中です」
と答えた。
すると、
「病気?なんの病気ですか?」
とさらに聞かれ、
「放射線治療中なので」
と答えると、
「放射線?なんの治療ですか?」
と、詮索してくるのだ。
静かな店内におばさんの声が響き渡る。
地元の病院なので、後ろで順番待ちをしている人の中にオレを知っている人がいるかも知れないし、オレは父親に病気のことを伏せている都合上、職場と家族以外に病名を伝えていないのだ。
オレはこの人の声の大きさに多少イラっとしながら、
「ガンです」
と小さな声で答えた。
すると、
「ガン!…ということは脳かどこかの...」
と、さらに声のボリュームが上がったので、
「違います。あの、もう少し声を落としていただけませんか?」
と、声色を変えて話を遮ってやった。
おばさんはギョッとしたような顔になり、慌てて薬を袋に突っ込んでいたね。
業務上必要な問診なのかも知れないけれど、配慮に欠けるというか、プロ意識の低い人だと思った。
後ろの人たちの視線を感じながら、逃げるように店外へ離脱。
病気になると、今まで味わったことのない感情に度々出くわす。
もちろん嫌なことばかりではないのだが、悪意のない悪意のようなものをぶつけられた時が一番対応に困ってしまう。