心配そうな看護師さんをお供に連れてトイレから無事帰還。

現在自分のいる病室(HCU=高度治療室)は患者が自力でトイレへ行くケースをあまり想定していないそうで、自動ドアを2つも越えて一般ゾーンまで行くという予想外の長旅だった。
オレだってかなり無理をして行ったのだ。
もっと体力の落ちている患者なら、確かに難しいかも知れない。

しばらくすると昼食が運ばれてくる。

今度はお皿にゴロゴロした鶏肉のかたまりやボイルしたキャベツなどが見えて、戦う前から戦意喪失。
別の器に盛られた里芋の煮っ転がしも何故かシャキシャキ。

どうやら軟野菜という言葉の定義を見直す必要がありそうだ。

結局お昼も、お粥以外は全く受け付けずに残してしまった。

看護師さんにリクエストはないかと聞かれたので、もう少し野菜にしっかり火を入れて欲しいとオーダーしておく。

本当は手術が無事に終わったことを職場へ報告しなければと思うのだが、どうしてもその気にならない。
文字を追う元気が出なくて、家族からのLINEにすら未だ目を通していないのだ。

握力もかなり落ちており、手術でどれだけダメージを受けたのかと不安になる。
ただ家族と職場以外には病気のことを一切伝えていないので、連絡先が少なく済んだのはよかったと思った。

午後、頭を動かす力もなく、眼球だけギョロギョロと動かしながら天井を見上げていると、
「一般病棟へ戻りますよ」
と看護師さん2人が登場。

何とか起き上がろうとすると、
「ベッドごと行きまーす」
と言って、オレのスーツケースや細々した私物を寝ているオレの周囲に放り込んで出発してしまった。

手術の前に乗ってきた秘密のエレベーターを使い、HCUをついに脱出。
身体の辛さは同じでも、気持ちがずいぶん楽になる。

元の個室に戻ると、心の底から安堵した。

14時、次男と妻がお見舞いに。
飲み物やゼリーなど食べやすそうなものを冷蔵庫へ補充してくれる。

気になっていた父親の様子を尋ねると、案外ケロッとしているとのこと。
インフルエンザで帰省中の娘も元気になり、昨日は4人で唐揚げを食べたそうだ。

タイミングが悪いと思ったけれど、今から思えば娘のインフルエンザも悪くはなかった。
普段は家にいない子どもたちがいることで、妻はずいぶん気が紛れたと思う。

次男は、手術が延びて不安に駆られる妻を見かね、進捗状況をスタッフに尋ねるなどいろいろ奔走してくれたそう。
泣き虫だったのにたくましくなったものだ。

その後、看護師さんから面会時間は15分以内と忠告を受け、2人は慌てて帰っていった。

夕刻、S園長と職場のみんなへLINEを送っていたところ、隣の部屋のおばさん患者が奇声を上げ始める。
一瞬ギョッとしたが看護師さんも慣れたもので、「はいはい、どうした?」と落ち着いて対応されていた。

看護師さんの問いかけにも奇声で答えているところがおかしい。
オレはまだ声を張り上げる力がないので、少なくともあのおばさんは今のオレよりは元気だと思った。

窓の外が薄暗くなってきた頃に夕飯が届く。
食欲がないわけではないのだが、思うように食べられないせいか、だんだん食事の時間が苦痛になってきている。

検温の際に、
「あまり噛まなくてもよいものがいい」
と言ったからかどうか、今回はペースト状の流動食になっていた。

ところがひと匙すくって口に入れると、吐物を食べているようで気持ちが悪い。
逆流しそうになるのを無理やり飲み込みながら、何とか一品だけ食した。

食後、
「わがまま言わずに食べますので、元に戻してください」
と看護師に懇願し、笑われる。

夜にかけて職場の皆から、手術を労う温かいメッセージが次々と届いた。

目を通すのが精一杯だったが、とても嬉しくありがたい気持ちで拝読した。