先日、永らくフォロワーを続けてくださる方から「最近何をなさっていますか? ブログが無いので…」と消息を問ふコメントを頂きました。
気づけば最後のブログから、そろそろ1年を経過してをり反省しきりです。それがし68年の齢を重ねた今も、自営業とアルバイトに従事致しをりますが、この年齢になりますと、昨日の出来事と今日のそれとに殆ど違ひが無く、つひつひネタも発想も滞つてしまひます。
それでも「何か無いか?」と考ゑたところ、好きな読書の話題でも…と思ひ立ちました。
数日前読み終へた、宮島未奈さん著「成瀬は天下を取りにいく」をご紹介させて頂きます。
私の本籍は滋賀県彦根市です。父は近江商人を多数輩出した八幡商業高校の出身です。母もやはり彦根市で、江戸時代は殿様しか宿泊を許されない中山道「高宮宿本陣」(写真下)といふ由緒のある家で生まれ育ちました。夫婦ともバリバリの近江深漬けですね。
私の産まれた頃は既に尼崎市に居住してをりましたが、幼い頃、我が家を訪ねてくる親類も客(父の同業者)も殆どが滋賀県出身の方々でした。夏休みは父母の故郷で過ごす習慣があり、偶々父の実家が琵琶湖畔に在りましたので、午前午後とも琵琶湖で水を浴びて過ごしました。(ところが何故か泳げない)
近江商人の先達に、西武グループ創業者の堤康次郎氏が居ります。そのゆかりから滋賀県大津市におの浜といふ所に「西武大津店」といふ百貨店が建つたのが1976年。最寄り駅は国鉄(今のJR)膳所(ぜぜ)。この「成瀬は…」といふ作品はその西武大津店が44年の歴史を最後に閉店する直前から始まります。
奇抜な発想と行動で周囲を驚かせる少女「成瀬あかり」は、いつか自分の力で地元膳所(ぜぜ)に百貨店を再建するといふ夢を抱いてをります。郷土愛に満ち溢れる彼女の、どこまでも真っ直ぐ驀進してゆくバイタリティは、実に痛快で且つ可憐でもあり、漫才、学内サークル(かるた)行事、はたまた地元自治会活動を次々と成功に導きます。彼女を密かに慕ふ広島錦木高校かるたサークルの西浦君とのやりとりも微笑ましい場面です。琵琶湖ミシガンクルーズが紹介されます。
私が個人的に嬉しかつたのは、西武と言へば関西では「西武高槻店」。これは私が就職後、菓子舗に勤めてゐた頃しばらく赴任した店でございます。もう一つ「西武つかしん店」。これは現在伊丹に住む私が子どもらと通つた最寄りの遊戯スペースでした。いずれの店も今はございません。その意味でも、この成瀬あかりにシンパシーを覚ゑるのでございます。
私が幼い時分、東海道本線の快速電車で大阪から彦根を訪ねて行つた頃の停車駅は、高槻、京都から米原まで各駅停車でした。大津から滋賀県に入り、膳所、石山、瀬田…(略)…稲枝、河瀬、彦根と、10数個の駅名を指折り数えて全て覚ゑたものでございます。それらの懐かしい駅の名も、この作品に幾つか登場します。
京都と滋賀を併せて「京滋地区」といふ呼び方がございますが、昔から京都人は滋賀県人を下に見る傾向があり、その名残は現在でも残つてをります。京はさすがに長らく都だつたので、已むを得ない部分はございますが、この「成瀬は天下を取りにいく」の成瀬は、そのやうな旧弊をものともしないニューヒロインで、滋賀に縁の在る者として熱く応援したくなる作品でした。
この続編「成瀬は信じた道をいく」が既に発刊されてをります。今から楽しみに致しをります。