今日はひなまつりーー雛人形店員さんの辛辣なひと言 | 還暦を過ぎたトリトンのブログ

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雛人形、飾った?

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 30数年も昔のことです。

 私ども夫婦の間に、初めて産まれた子は女の子でした。

 ダウン症の子にありがちな、先天的な心臓疾患を持つてをりました。それゆへ、ある程度成長を待つて心臓の大手術を受けました。心臓外科を得意とする病院への入退院を繰り返し、ようやく完治したのが3歳頃のことだつたと記憶します。

 

 少々遅ればせながら、私の母が「女の子なのだから、お雛さまを買つてあげませう」と提案してくれました。そこで、母と私ども夫婦、それに娘を背負つて、4人で大阪は松屋町筋へ繰り出しました。

 

 

 この一帯は江戸時代から菓子問屋が集まる処です。私どもの住むマンション自治会でも、夏祭りの時期にはこの松屋町筋へ「輪投げ」の賞品を仕入れに参ります。菓子のみならず、風船のやうに膨らませて出来る玩具の剣やキャラクタ人形、光る時計や花火も売られ、童心に還つた気になります。世の中にはこんなに多くの種類の子ども向け商品があるのかと、感心してしまひます。

 

 さて、それらと軒を接するやうにして、雛人形専門問屋もズラリと並んでをります。

 私どもは片つ端から、それらの人形店を回ることにしました。問屋ですゆへ、店のほうもあまりガツガツしてゐないといふのでせうか、自分の店のみならず何処へでも覗いて見てくださいよ… といふ雰囲気なのが嬉しいです。

 

 最初は、天井の高さもあるやうな五段の雛飾りを眺めてをりましたが、当方の家にそれを置くやうなスペースはございません。徐々に省スペースの小さなものへと目が移ります。

 我が子をおぶつて各店を観て回るうちに、次第に疲れてきた私どもは、男雛&女雛だけのコンパクトなもので良いではないかと思ふやうになりました。今回の金主(オーナー)である母の趣味から、木目込み人形が値打ちがあるので、それが良からうと話がまとまつてきたのです。

 

 有名店の「○村」に、恰度母の好みの上品な親王飾り(最上段の親王様だけを飾る)を発見した私どもは、近くに居た年配の店員さんを捉まゑました。

 「今日はあちこち観てきはりましたか」と労ひつつ、疲れ果てた私どもの言動をいち早く見抜いた彼は、私どもの指差すガラスケース入り雛人形を、少し冷ややかに一瞥するのでした。そして…

 「このお雛さんは、お子に差し上げるものやおまへんな。お子ならば、もつと華やかで、最低3段くらひのもんを欲しがりますさかいな」と言うのです。唖然とする私らに、さらに

 「このお雛さんは、親が自分の趣味のために買ひはる品物ですわ」…

 

 彼のクールな言葉は、私ども3人の心に突き刺さりました。

 そして、確かに彼が言ふとほり、娘のことよりも「どうせなら後々値打ちのあるものを」と、大人だけの価値観で物色してゐたことに気づいたのでした。

 

 私の背で眠る娘は、病弱で知能も遅れてをり、自ら人形を欲しがる子ではありません。近所の子らと遊ぶ機会もほとんどありません。硝子張りの雛人形よりも、むしろ、ひなあられを食べ「楽しいひなまつり」の歌を親と一緒に歌つてゐる方が、よほど嬉しいのです。

 

 結局私どもは、言葉少なく、目的だつた雛人形を買ひ求めることもなく帰途に就いたのでございます。それにしても、あの店員さんは商売気の無い人だつたなあ… と、3月になれば今でも思ひ出すのです。

 

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