去る9月24日の兵庫県議会で、井戸俊三知事が或る提案をされました。
「瀬戸内海は水質浄化をやりすぎて、海水中の窒素やリンが極端に減少して魚が住めない」ーー言わむとする処は、瀬戸内海の春の味覚として名高い「イカナゴ」を指しているのは明白です。
瀬戸内海では春から秋口にかけて、大阪湾から播磨灘あたりまでを主要漁場とする「イカナゴ」が名物です。神戸、明石、高砂、姫路、淡路あたりの漁協は、毎年5月の解禁日を心待ちにしてゐます。このシーズンは何処へ行っても「釘煮」の、生姜がまじつた甘い匂ひが漂つてゐるほどです。
ここから先は、イカナゴを好物とされてゐる方は、お読みにならぬ方が良いやもしれません。
イカナゴの稚魚は5センチくらいまで育つと漁期に入ります。以前は瀬戸内海、特に大阪湾は汚れて濁つてゐたものですが、今は水質改善されて透明度も高くなつてをります。
昔は「汚穢(おわい)船」(汲み取りの糞尿を積載して海上に流す船)が海面に黄色い泡の塊のように糞尿を流すと、そこへイカナゴの稚魚が一気に集まつて餌にしてをりました。人糞がイカナゴにとつては最高のご馳走だつたやうです。
家庭用排水も、下水管から直接海に流されてゐた時期が続きました。海は濁つてをりましたが、そのかはり栄養はたつぷりだつたのでせう。
瀬戸内海の水質浄化は進み、下水処理技術も進むと、逆に海は栄養不足に陥りました。イカナゴの稚魚は目に見えて減少し、今年は解禁日から3日後には「禁漁」の通達が出されました。普段の年ならば1キロ700円前後なのに、今年は何と初日から4,000円の高値がついてゐたのです。
ここまでの話、皆様は耐へられたでせうか? 実は、ここからは更に強烈になります。
兵庫県警察の管轄で、港湾の埠頭や水上を管轄する神戸水上警察署がございます。
さて海面に浮かぶ物は色々ありますが、木材や発泡スチロールなどに混じつて当然ながら水死体も有ります。海面に浮き沈みするその土左衛門さんを引き上げるのも、水上警察の方々の仕事でございます。
聞けば、春から秋にかけての時期、この腐敗した土左衛門さんを引き上げやうとすると、腹が割れて中から滝の如くにイカナゴの稚魚が流れ出すさうでございます。「人間」もまたイカナゴの好物だつたのですね(汗)。
今日はもう10月2日といふのに、まだまだ夏のやうに暑うございます。そんな暑さのひと時を忘れる怖いお話でございました。