地球の裏側の友人(アミーゴ)たち〈4〉 | 還暦を過ぎたトリトンのブログ

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団塊世代よりも年下で、
でも新人類より年上で…
昭和30年代生まれの価値観にこだはります

 さうかうする内に、フリオ君の2年のビザの更新時期がやつて参りました。

 私は、海外旅行の経験さへ無い身ですのでビザの意味も碌に知らず、やれ就労ビザだ、留学生だと色々な種類を言はれても、全くの門外漢でございます。

 フリオ君が初来日の際に揃へた大量の書類を見せて貰ひましたが、その殆どが故国ボリビアで準備したものであり、何が書いてあるのやも理解できません。

 

 何よりも経験者に問ふのが良いだらうと、K氏に連絡をとることに致しました。フリオ君は日本での彼の住所も電話も知つてをりました。K氏は幸ひ娑婆(シャバ)に居りました。この度の入国管理局による取り調べと新聞報道で、もう関はりたくないといふ彼に「遠く祖国を離れて、困つてゐる者の身になつてみよ」と説得し、尼崎立花に在る私の仕事場へ呼び出すことが出来ました。

 

 当初は私の方も、K氏の方も、この相手は一体何者だといふ疑心暗鬼の態でございました。それでもフリオ君を間に入れて話すうちに、K氏は報道での印象とは異なり、背後に何の組織も無い「善意」の人物で、単なるお調子者らしき事が判りました。それでも相当額の仲介料は得てゐたやうですが。

 

 この場で私は、ビザ更新に関する必要事項と注意ポイントを教はることができました。そして此処に至つて、私がフリオ君のビザ更新で「保証人」となる以外に道が無いことも悟りました。

 保証人と申しましても、借金の保証人とは趣が異なり、基本は本人に日本の法を守らせること、所在を常に明らかにすること、オーバーステイをさせないことが目的です。あとは、入国管理局にとつてトリトンといふ人物が信用に足るかだうか、それが重要なのです。無論私の現住所や本籍、家族構成、収入も含まれます。

 

 初めての緊張感に耐へつつ熟慮に熟慮を重ねた私は、言はば出先の尼崎入管よりも、神戸の本庁へ直接出向くのが良からうと決めました。私はフリオ君とマリアを連れて三宮駅から南へ直進した処に在る法務合同庁舎へ向かひます。

 フリオ君は「自分は拘束されるのではないか」と考へ、前日は恋人と二人で逃亡することも考へたやうです。この日は180cm、90kg の体がふた周りほど小さく見え、マリアの陰に隠れるやうにしてゐるのが、情けなくも微笑ましかつたです。堂々とした態度を見せるべき時だけに、元プロサッカー選手も形無しです。

 Hacerlo bien !(ちやんとせい!)と私が喝を入れたのは言ふ迄もありません。

 

 それから3ヶ月後、じりじりして待つ私どもの許に、法務省入国管理局から手紙が届きました。結果は1年間の延長が認められました。

 この結果は私自身にも、精神的に少なからぬ影響をもたらしました。自信が仕事方面にも現はれたのです。男といふものは単純なものです。

 

右端がフリオ君、一人おいてマリア

 

 フリオ君はボリビア人の渡日組の先駆者であり、その彼がビザ更新をクリアしたことから、是非グラン・トリトンを紹介して欲しいといふ要望が山のやうに来ました。それは私の耳に入る以前にフリオ君とマリアが全て断つてをつたやうです。もちろん私を独り占めしたいといふ考へもあつたでせうが、結果、タチの宜しくないグループから私を守るといふことにも繋がつたのです。