それがし小学生の頃、この二大アニメ番組が同時期に放映されてをりました。今思へば大変恵まれた、素晴らしい時代ですね。
手塚治虫氏の「鉄腕アトム」は精巧なアンドロイド。感情も人間と同じやうに有し、後づくりながら父母兄弟も居ります。「ロボットは人間を殺してはならない」といふ法律と現実の狭間で悩み、苦しみ、試行錯誤し、正しい道を見つけて人間を救ひます。
手塚治虫氏が医学博士でもあるところから視て、氏が科学の未来に良心を持たせることを「鉄腕アトム」に託したものと考へて、遠からづといつた処でせうか。
それに対し横山光輝氏の「鉄人28号」はどうでせう。いかにも機械ロボットといふ寸胴の体型で、巨大で丈夫、しかし自己の意志が無く、リモコンで動く…。
さういつた表面上の比較から、私たち小学生らには断然「鉄腕アトム」の方が人気がありました。悪い言ひ方をすれば「鉄人28号」は低学年か幼児が見る漫画だ…などといふ身勝手な雰囲気が、当時子供なりにあつたことを覚ゑてをります。
私自身、それがいかに皮相な見方であつたかに気付いたのは、恥づかしながら近年のことです。
手塚氏が未来科学に希望と良心を求めてゐたのに対し、横山氏は、不安定な未来科学に良心など無く、人間が正義を貫いてコントロールしてゆくべきものだと考へてをられた…と、物の本で読みました。
「鉄人28号」の主題歌に「或る時は正義の味方、或る時は悪魔の手先、敵に渡すな大事なリモコン…」といふクダリがあります。まるで、いま世界を賑はしてゐる北朝鮮の核そのものですね。その名を冠した「アトム」よりも、鉄人こそが「原子力」に置き換えられる存在なのです。
未来科学を単に「便利」とか「経済」だけの側面で利用してゐる間に、リモコンが悪魔の手に渡つてしまふぞ…… といふ、何とも現実的且つ深い洞察力に富んだ漫画こそ「鉄人28号」なのだと気付いた数年前、私は戦慄に襲はれました。
世界中で日本のアニメが高く評価されてをります。地球や、国や、友を守るために命をかける日本の漫画の主人公に、世界の若者らが高い道徳性を見出してゐるさうです。(麻生太郎氏の慧眼が実つたかも…)
ならば是非60年前に「鉄人28号」といふ先見性に富んだ漫画が生まれてゐたことを、世界中に知つてもらへると嬉しいですね。