「長蛇の列」に思ふ | 還暦を過ぎたトリトンのブログ

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団塊世代よりも年下で、
でも新人類より年上で…
昭和30年代生まれの価値観にこだはります

 

 確定申告の季節です。

 過去に3月になつてから税務署へ行つて大混雑に懲りた経験があるため、私は一昨日申告に行つて参りました。午前10時頃でしたが、それでも、既に出来上がつた書類を受け付けてもらふだけで30~40分といふ長い時間、列に並ばねばなりませんでした。

 

 さて日本人はお行儀が良い…といふのは、海外からの観光客の間では広く知られてゐるやうです。喩へば、駅員の指導を俟つ迄もなく、乗客が電車を待つために整然と2列になつて並び、電車が到着しても降りる客が途切れてから、割り込むことなく順番に乗車するといふのは、他国の人々にとつて驚異的なことらしいですね。

 私は列の後方に並ぶのが苦手で、時間の決められた旅行や、最終電車以外は、並ばずに列が済んでから最後に乗車するやうにしてをります。

 

 

 阪神間に住む私にとつて、拉麵店に並ぶ長蛇の列といふ風景は、日常茶飯事に見慣れてをります。国道二号線を尼崎から芦屋辺りまでを車で走つてをりますと、拉麵の有名店が軒を並べる地域に屢々出くわします。私の住まふ伊丹市内にも、何軒か人気店があります。お午時ともなると、それらの店には数十メートルの列が作られてをり、麵好きな私でも「何もそこまでして…」と考へてしまひます。

 

 斯様な私も、少々嬉しくなる光景があります。

 拉麵店の方で売り切れが近づきますと、若い店員さんが出てきて、居並ぶ人々に「あなたは何を召し上がられますか?」「あなたは何杯ですか?」と一人一人尋ねてゆき、最後に「誠に申し訳ございません。今日はこのお客様までで品切れです」と、その後ろに列を作る人に声をかける。そのやうな場面がありますね。

 これは店側にとつては、当然の事と考へられてをるやうです。

 しかし私は、これこそ日本人が「お客様に満足してもらひたい」「人様に迷惑をかけない(客を無駄に待たせない)」、他人の気持ちになつて考へる誇らしい商習慣だと感じ、大変嬉しくなるのです。

 

 私の父母は共に滋賀県出身で、とりわけ父は八幡商業高校を卒業しました。有名な「近江商人」の精神を引き継ぐ学校ですね。

 「近江商人」といふものに皆様は如何なるイメージを抱かれるでせうか。良いものも悪いものもあるでせうが、これだけは知つて頂きたく存じます。

 近江商法で基本的に旨とされるのは「売り手よし」「買い手よし」…ここまでは当然としても、もう一つ「世間よし」といふ言葉が入るのです。これは素晴らしい美徳だと思ひます。

 

 少し以前の話になるので、現在ではどうか判りませんが、不愉快な店を経験したことがあります。

 南京町に有る有名なRといふ肉饅の店があります。一人の客が百個買ふこともあり、毎日列をなしてゐる場面がTV放映されるなど、ある意味この地域の代表的な店なのです。工房が硝子張りで肉饅を作つてゐる処が外から見えるこの店、目の前に客が長蛇の列を成してゐても何処吹く風と、鼻歌を歌ひながら製造してをります。

 それだけならまあ仕方ないのですが、品切れになるや否や、何のひと言の説明もお詫びもなく、バタンと店を閉めてしまつたのです。店の前に数十人の客が並んでゐても、何の配慮もありませんでした。

 お国柄の違ひなのでせうが「待つのはお前等の勝手だ」「勝手に並んだお前らが悪い」といはむばかりのこの態度には、釈然としない思ひがしたものです。

 でも思へば斯ういつた雰囲気、商習慣そのものが「南京町」だつたのでせうね。

 

 「近江商人」に関しましては、いづれ稿を改めて語らせて頂きたく存じます。