耕一は、上海での興奮も醒めぬまま、これまでの仕事に関して見直そうと考えた・・・
耕一が、上海から帰国して2日後、銀座のオフィスの会議室に7名が集まっていた。集められたメンバーは、須山・新瀬・大山・安西・森田・小田と耕一の7名である。須山は、以前、耕一と一緒に仕事したことのある広告製作会社のプランナー出身である。荒瀬は、耕一が広島での仕事の際に、仕事を共にした。大山は、もともと金融系のコンサルタント出身、安西は現在、耕一の指示で、ある会社に出向している。そして、森田は耕一が以前、通ったビジネススクールの講師を務めていた女傑である。
ここに集まったのは、先に請け負っていた某医療機器メーカーの調査案件について、進捗状況を確認するためである。
耕一「皆さん、急に招集かけてすみません。クライアントは、身勝手と決まっていますが、ちょっと厄介なことが起こりそうですので、皆さんにお集まりいただきました。本日の記録は、小田さんお願いします。」
森田「厄介なことって、なんですか?」
須山「現在までの、まとまった資料に何か問題がありましたか?」
大山「内容的には、クライアントの意向から外れては居ないと思いますが・・・」
耕一「森田さん、先週までお疲れ様でした。約3週間、クライアントの現場に張り付いてもらって、大変だったと思います。その中で、何かありましたか?」
森田「まあ、日本の大企業とはあんなもんですかね???とにかく、企業文化の差異に少々、驚きましたわ!なんたって、部署の半分近い人間の動きが手に取るように見えたのですが、私から見ると殆ど仕事になってませんわ・・・」
大手米国企業本社で、マーケティングマネージャーを経験した彼女にとっては、今回の仕事は、耕一が頭を下げ、頼み込んで参加してもらった。その彼女からすると、今回のクライアントの状況は、相当悲惨に映ったらしい・・・
大山「そうですね、業界でもH社の製品は、評価が分かれていますが・・・今回の『電子カルテ』においては、あまり評判は良くないようですが・・・」
荒瀬「いや、現状の『電子カルテ』はどこもあまり評判が良くないですよ。費用対効果が悪いようです・・・」
須山「ところで、中澤さん『厄介なこと』って何ですか?・・・」
耕一「正直、クライアントは未だ我々の事を信頼していないようです・・・つまり、調査結果と報告書だけでは納得いかないと・・・」
森田「ちょっと、待ってください。私に何か問題ありましたか???」声のトーンが上がった・・・
耕一「いや、それは無いです。我々のやり方に、疑問を持たれているようです・・・」
大山「そうですか?しかし、私の知る限り、このチームでの内容は非常にレベル高いですよ・・・」
安西「途中からの参加で申し訳ないのですが、疑問とか信頼とか、具体的には何なんですか???」
耕一「約一ヵ月後に、最終報告でこの仕事を完了する予定ですが、それまでにクライアントを付けて欲しいと・・・つまり、彼らの『電子カルテ』の営業もしろということになります・・・」
(全員)「はあ???何ですかその話は???」
森田「そもそも、売れないからその為に徹底的に調べて、販売していくためのキラーコンテンツを見出す話ではないのですか???」
大山「私も、そうおもいますね・・・」
荒瀬「今のシステムを販売するには、問題が多すぎるという前提条件があったはずです。それを何から優先順位を付けて、改良・販売していくか・・・を具体的に計画を立てる話だったような・・・」
元より、チームメンバーは大変優秀な人材で構成されていた。かくも、意見の吐出は、予想はしていたが・・・耕一は、一同の視線を感じつつも、どのように対応すべきか?思案していた・・・
耕一「皆さんのご意見は、全くもってその通りです。私も同じ気持ちです。しかし、我々のスタンス(立場)からすれば、クライアントの満足度をどこで折り合いを付けるか?とも思います。当然、我々が『電子カルテ』のシステムを販売できないことも無いですが、するべきではないと考えます・・・」
一同は、沈黙した・・・筋論に関しては、ほぼどうレベルで一瞬に理解できている証拠である。
『果たして、どうすべきか???・・・』耕一は、考えた・・・
安西「私は、長く営業としても売上・利益に責任持つ仕事もしましたが、売上保証らしき話は、一度も受けたことが無い。ましてや、今回のような状況で『売上(数字)』があからさまに欲しいといい話は、スタート時点から外れた話ではないですか?」
森田「私も、安西さんの言う通りだと思うわ・・・」
須山「中澤さん、これは貴方の交渉に掛けるしかないですね・・・このままでは全員が、この時点で本件から降りるかもしれない・・・」
耕一「分かりました。皆さんのご意見を参考に、再度H社と交渉・話し合いをして見ます。結果は、即お返ししますので、その後改めて、お集まりいただくことになると思います。よろしくお願いします。」
一同は、散会した。耕一は、大きなため息をついた。すると・・・
小田「あの、大変ですね・・・私には難しすぎて・・・でも、どうするんですか?」
耕一「小田さん、H社に訪問する際に鞄持ちしてくれるか?」
小田「はい・・・」
耕一は、一計を案じ始めていた・・・・(続)