中国・浙江省杭州市で、企業が人工知能(AI)の導入を理由に社員へ大幅な賃下げを求め、拒否した社員を解雇したとして争われた労働裁判が注目を集めています。裁判所は企業側の対応を違法と認定し、約58万元(日本円で約1200万円)の賠償金支払いを命じました。中国ではAI普及が進む中、「AIを口実にした人員整理」として社会的関心を集めています。
報道によりますと、問題となったのは杭州のあるIT企業で、2025年、AI大規模モデルの導入によって人による品質管理業務を代替できるとして、AI応答品質チェック部門の主管を務めていた幹部社員に配置転換を提示しました。管理職から一般職への異動に加え、月給は2万5000元から1万5000元へと約40%引き下げられる内容だったとされます。
当該社員がこの条件を拒否したところ、会社側は一方的に労働契約を解除し、法定基準に基づく補償金31万元のみを支払いました。しかし、労働仲裁と二審制の裁判を経て、最終的に企業側の解雇は違法と判断され、不足分を含め58万元の賠償が命じられました。
裁判所は、AI導入は企業による自主的な経営判断であり、労働契約法で定める「重大な客観的状況の変化」には当たらないと指摘しました。また、40%もの減給を伴う異動案は著しく不公平で、再教育や同等条件の配置転換措置も示されていなかったと認定しました。さらに、技術更新のコストやリスクを労働者へ一方的に負わせることは許されないとしました。
この判決は、中国各地の司法判断にも影響を与える可能性があります。北京や広州でも、AI導入を理由にした解雇事案で企業側敗訴の例が出ており、司法当局が「技術革新を口実とした違法解雇」に厳しい姿勢を示しているとの見方があります。
一方で、この事件は中国社会で広がる「35歳の壁」問題も浮き彫りにしました。中国では35歳前後を境に転職や昇進が難しくなるとの不安が強く、中高年層の会社員にとって、年齢問題とAIによる代替圧力が重なる「二重の危機」と受け止められています。
専門家の間では、AIが単純作業を代替する一方、人間には創造力や倫理判断、対人コミュニケーションといった強みが残ると指摘されています。企業には再教育や配置転換支援、行政には新たな雇用ルール整備が求められており、AI時代の働き方をどう築くかが大きな課題となっています。
