【Info News Zero】英残留か撤退か、自動車各社悩ます「合意なき離脱」の影【ロイター】 | 【一流企業経営マネジメント対策】【high land presidential group atendantia】【トッププロフェッショナル コンサルティングチーム】

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[セント・アサン/ゲイドン(イングランド) 21日 ロイター] - 英高級車メーカーのアストンマーティン(AML.L)は、ウェールズの古い空軍基地にある3つの大きな格納庫に、組立工場を建設する計画を進めている。

塗装工場が併設され、到着した組立ロボットも開梱され、同社にとって重要な意味をもつ新型スポーツ多目的車(SUV)の生産ラインは今年開始される予定だ。それは、英国の欧州連合(EU)離脱(ブレグジット)が「合意あり」であろうと、「合意なし」であろうとだ。

「われわれは正しい決断をしたのだと信じたい。率直に言って、合意のないブレグジットは狂気の沙汰だ」と、アンディ・パルマー最高経営責任者(CEO)は英ゲイドンにある本社でロイターに語った。ここでは、2020年代以降に発表する多様な新型車の開発に設計者が取り組んでいる。

ブレグジットを目前にして、工場閉鎖やリストラのニュースがメディアを席巻している。

日産自動車(7201.T)はSUVの「エクストレイル」次期モデルを英国で生産する計画を取りやめた。ホンダ(7267.T)も2021年中に、英国で唯一の自動車工場を閉鎖、最大3500人の雇用が失われる。ただしホンダは、この決断はブレグジットとは関係ない、としている。

こうした動きの一方で、アストンマーティンのような高級車ブランドから英ボクスホールのような大衆車ブランドに至るまで、多くの自動車メーカーがブレグジットの期限である3月29日以降も生き残る方法を模索している。

ロンドン近郊のルートンにあるボクスホールの工場では、作業員たちが新型商用バンの生産に向け準備をしている。ボクスホールの親会社である仏自動車大手グループPSA(PEUP.PA)が同事業に新たな投資を行い、1000人以上の雇用を支えている。

ブレグジット後の市場については依然読めないものの、ボクスホールを率いるスティーブン・ノーマン氏はロイターに対し、ブレグジットが市場シェアを拡大する好機となり得ると説明。手ごろな価格の自動車やSUVの需要を押し上げるマーケティング戦略を推進している。

自動車メーカーはその規模や顧客、製品ライフサイクルのどの位置にいるかによって、相反する決断をすることもあれば、機会に恵まれることもある。一部の自動車メーカーによる投資継続やボクスホールが販売増を目指していることがそのことを示している。

 


英国で活動する自動車メーカー全社は、たとえ短期間であっても、ブレグジットをうまく乗り切る方法を見つけ出さねばならないだろう。

日産は英国で複数のモデルを45万台近く生産しており、すぐに撤退することは困難だろう。トヨタ自動車(7203.T)はカローラのみ同国で生産しているが、製品ライフサイクルが約7年の業界でまだ操業を始めたばかりだ。

<ダッシュボードの山>

アストンマーティンとボクスホールは好対照をなしている。

だが、アストンマーティンのパルマー氏もボクスホールのノーマン氏も、ブレグジットによって同じ危険な船に投げ込まれ、多くのライバル同様、両氏とも無秩序なブレグジットとなった場合の打撃を最小限に抑えようとしている。

両社は英国で大規模な生産工場を展開し、数多くの社員を抱えている。ブレグジットの影響は、政策立案者や国民が予想するよりも複雑で広範囲に及び、全容が分かるまでには時間がかかると、パルマー、ノーマン両氏は口をそろえる。

スポーツカーの価格が優に10万ポンド(約1400万円)を超えるアストンマーティンにとって、英国製自動車にかけられる新たな欧州関税はそれほど大きな懸念ではないと、パルマー氏は言う。

ベントレーモーターズやロールスロイス、マクラーレン・オートモーティブといったより事業規模の小さい自動車メーカーと同様、アストンも利益率が高く、富裕層が顧客である同社は、新たなコストを容易に価格に転嫁できる。大衆車メーカーではこうはいかない。

それよりもパルマー氏が懸念するのは、部品供給網の混乱と生産システムの念入りなスケジュール管理だ。


ゲイドンにある自社工場を歩きながら、パルマー氏は工場の片隅にあふれるダッシュボードを指差した。

アストンは、突然の「合意なき」ブレグジットによって、英国の港が混乱し、部品を積んだトラックが遅れる事態に備え、主要部品を備蓄している。備蓄量をこれまでの3日分から5日分に増やし、ブレグジット期限の3月29日以降に港が渋滞する場合は部品を空輸することも考えている。

同社はエンジンの多くを独メルセデス・ベンツの工場から輸入しており、国境で行われる新たな検問や関税によって出荷が遅れる恐れがある。

自由貿易を何十年も行ってきた後に関税や世界貿易機関(WTO)のルールといった制度に戻ることは、アストンやそのサプライヤーにとって、全部品の出所を突き止め、記録しなくてはいけないことを意味すると、パルマー氏は言う。

「自動車を構成する部品が1万個あったとすれば、それら部品を構成する副部品はざっと数十万個にも及ぶ。正直言って、それら全ての出所を知っているかといえば、多くの場合、そうとはいえない」

パルマー氏は先月、サプライチェーンの責任者を雇ったと発表したが、その理由の1つにはこうした背景がある。「ブレグジットに備えることで彼の頭の中はいっぱいだ」とパルマー氏は語った。

2016年半ばにブレグジットの是非を問う英国民投票が実施されたころ、アストンマーティンは複数年にわたる戦略を実行しているさなかだった。2015年に発表された同計画は、これまでは年間約3500台のスポーツカーを生産していたが、今後は年間で最大1万4000台のスポーツカーとSUVを生産するというものだ。

セント・アサンにある工場では、SUVの「DBX」を生産開始、2020年代初めには「ラゴンダ」ブランドの下で新しい高級電気自動車(EV)を生産する予定だ。

そうした投資の中止は、アストンの計画にはない。

「どうしたら走り続けられるのか、とよく聞かれる。それはまさにサプライチェーンのおかげだ。自身が直面するマクロ経済を全て吸収してしまうサプライチェーンの能力のおかげだ」

このような懸念を抱えているのはアストンだけではない。英国で最大の販売台数を誇る独フォルクスワーゲン(VW)(VOWG_p.DE)とホンダも部品を備蓄していると明らかにした。ジャガー・ランドローバーは倉庫会社と協議中であり、ベントレーは格納スペースを借りているという。

<混乱は好機か>

ボクスホールを率いるノーマン氏は、ブレグジットは同社にとって好機となり得ると話す。かつて米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下だった同社は低迷した時期もあったが、現在はPSAの下で新たな戦略を立てている。

合意なきブレグジットとなれば、英国の新車需要は2割程度低下するが、ボクスホールにとってはシェア拡大の好機となると同社は考えている。

PSAは昨年、複数のバン新型モデルを生産するためルートン工場への新たな投資を行った。しかし来年は、ボクスホールのエレスメア・ポート工場の操業を続けるか決断をしなくてはならない。同工場の「アストラ・スポーツツアラー」の生産期間が終了するからだ。

この決断は簡単ではない、とノーマン氏は言う。「われわれにとっても、他のメーカーにとっても、ハードブレグジットが英国での工場閉鎖を自動的に意味する、というのは真実ではない。だが、自動車メーカーが一段と見直しを迫られていることは確かだ」

英国の労働者には、関税とサプライチェーン問題を補う生産性向上が求められることになるだろう。

2017年にプジョーの親会社であるPSAに買収されたボクスホールは現在、英国の自動車販売の7.5%を占める。

同じグループ企業のプジョーとシトロエン、DSオートモビルズと合わせるとシェアは計13%となり、PSAは欧州2位の自動車市場である英国で最大手の自動車販売元となる。

もしブレグジットにより英国市場が打撃を受けることになれば、ボクスホールの主力である機能的で経済的な価格帯の車は有利になる可能性があるとノーマン氏は言う。

「人々はじっと目を凝らして、こう自分に問いかけるようになる。価格に見合わないこの新型モデルにカネを払う必要が本当にあるだろうか。ボクスホールの製品をもっと真剣に検討しなくてもいいだろうか。特権のために大金を支払うのではなく、ただ良い車を持ちたいのだと」

 


経済環境が大きく変化するとき、安定供給のための更なる維持が求められる。