今のシングルモルト市場は、蒸溜所名を明かせないものが増えている。
いわゆる、シークレットスペイサイドやシークレットアイラだ。
しかし、輸入元資料などにヒントがかかれていたり、記録には残せないが口頭で内密に伝えられていたりする。
とはいえ、そういう情報も年月を経るとどんどん風化していく。
そうなるとそのボトルの素性は、より分からなくなっていく。
このボトルも、そんなボトルの一つでシングル・アイラ・モルト表記のちょっと古めのボトルだ。
イタリア回りで、タックスシールは赤とオレンジの二ツ星、750mlという容量表記がある。
しかし熟成年も蒸溜年もかかれておらず、蒸溜所の情報もない。
本来ならどこの蒸溜所の酒か分からないはずだが、実はこのラベルには決定的な情報が書かれている。
モリソン・ハワット(ハウアット)・ディスティラーズと表記があるのだ。
それは、1951年にスタンレー・P・モリソン氏と公認会計士のジェームス・ハワット氏が作った会社の別名義だと思われる。
その会社スタンレー・P・モリソン社はその12年後、ボウモア蒸溜所を買い取っている。
いわゆるモリソン・ボウモアだ。
それゆえにこのアイラの中身は、おそらくボウモアだといわれている。
私も当然これはボウモアだと思っているから買ったわけだ。
なお、スタンレー・P・モリソン氏とジェームス・ハワット氏との逸話は以下に触れられている。
↓↓↓↓
https://www.ballantines.ne.jp/scotchnote/124/index.html
ちなみにこの会社名義で出ているボトルは、いくつか見かけた事がある。
よく知られているのは、スリム・コーウェル・パーソナル・セレクションのグレンギリーではないか。
特に1972ヴィンテージの15年は、かつて日本橋のIANで開いたときにかなり話題になった。
このブログでも紹介しているが、衝撃的なグレンギリーだった。
meblo.jp/zgmf-x10a19730730/entry-12204058256.html
話をボウモアに戻すが、このボトルは普通に日本の酒屋で買った。
確か薩摩のキンコーで買ったはずで、裏にはジャパン・インポート・システムのシールが貼ってある。
買った値段は全く覚えていないが、パフュームが出ている可能性もあるため、高かったら買っていないだろう。
せいぜい3万円くらいではないかと思う。
このボトルは所有しているものの、実は飲んだことがない。
そのため、ボウモアを何か開けようと物色していたら目につき、これを飲んでみようと手に取った。
なおアルコール度数は40%で、熟成は表記がないが12年という説があるようだ。
また、赤とオレンジの二ツ星のタックスシールは、70年代半ばから90年代頭流通と言われる。
しかし、さすがに60年代頭蒸溜、70年代半ば流通ということはないだろう。
それならばもっとよく知られ、高値になっているはずだ。
おそらく70年代蒸溜で80年代半ばに流通していたものではなかろうか。
それを確認するため、開栓してテイスティングしてみた。
【テイスティング】
土の香り、ピートスモーク、麦の旨味、デーツ。
枝つきレーズン、白ブドウの果実、オレンジの皮、クリスピーな麦芽。
麦チョコレート、ほんのりパフュームの芽、潮風、ミントっぽいニュアンス。
キラキラとした海面、ハチミツ、ハネデューメロン、フルーティーな余韻。
完全にボウモア味のウイスキーで、70年代頭から半ばの蒸溜ではないかと思う。
一番近いのはやはり同時期のオフィシャルである、デラックス表記のブラウンダンピーの12年だろうか。
NASだが若さはなく十分に仕上がっているし、40%とはいえ厚みがある。
シェリー系の原酒とバーボン系のバランスが取れていて、フルーティーというよりはモルティ。
もちろんフルーティーさもあるのだが、トロピカルフレーバーは薄くメロンや瓜っぽい。
72~75位のヴィンテージっぽいなと思う味わい。
古いボウモアを味わえるボトルで、思わずニヤリとしてしまう。
スクリューキャップだからか、フレッシュさもあり劣化は感じられない。
高い値段を払うのはお勧めしないが、安く売っているなら買っても楽しめるだろう。
すいすい飲めるので、テイスティングのつもりがかなり減ってしまった。
やはりアイラの中でもボウモアは独特な立ち位置のウイスキーで、この辺りまでのものは特に味わい深い。
しかし改めて短熟を飲み直してみると、60年代蒸溜ならいざ知らず、70年代の普通のものは90年代蒸溜のボウモアとは共通点がある。
しかも、クオリティにも大きな差があるわけではないと思う。
私が飲み始めた2010年前後に流通していた12年ものは、このロットの12年は素晴らしいとバーテンダーによく言われていた。
1997~1999蒸溜とおぼしき、90年代後半蒸溜の原酒が使われていたからで、今となっては納得がいく。
3,000円ぐらいだったため、1ケースぐらいはストックしておくべきだったと思う。
ちなみに今年2024年は、サントリーがモリソン・ボウモアの全株式を1994年に取得して30年という、節目の年に当たる。
生産調整に入っていたためか、1993や1994のヴィンテージはあまり見かけない。
現に蒸溜所で売られるハンドフィルボトルなども、1995ヴィンテージからとなっている。
そのため、サントリーとしては自社の生産元年は1995と捉えているかもしれないが、せっかくの30年という節目の年に、記念ボトルが出てきたら嬉しい。
ちなみに、モリソン・ボウモアは30周年に1963ヴィンテージの記念ボトルを出している。
もっとも1995ヴィンテージを出したとしたら、そのクラスのものはもはや買える値段ではなくなっていることだろう。
ボウモアには思い入れが強い方が多いと思うが、私もそのうちの一人で『最後に行き着く酒』といわれる理由がよく分かる。
当時は決して特別ではなかっただろうが、今飲むとしみじみとうまく、ノスタルジックな気持ちにさせてくれる。
篝火のような灯台の光のような、強くはないが確かな光。
そんなイメージの湧くオールドボウモアだ。
【Verygood!!!】