新しいことを知るのは愉しいことだ。
少なくとも私はそう思う。
最近ウイスキーよりワインにシフトしている理由の一つに、それも大きく影響している。
新しいものに出会う楽しみや、新しいことを知った時の驚きや興奮は、ワインの方がより味わえるからだ。
飲んだことはおろか、聞いたことすらなかったすごいワインはたくさん存在する。
それを飲んだり知ったりする事は、私にとっては本当に愉しい。
しかもワインは食中に飲むことが多いため、お互いに高め合う酒と料理の組み合わせも知ることができる。
ワインを飲みだしてから、今まで積極的に食べてこなかったチーズもよく食べるようになったし、興味が湧いてかなり勉強もした。
ワインを本格的に飲み始めて約5年が経つが、ワインは世界中で作られているため、まだまだ知らないものがたくさん存在する。
このヴァン・ド・コンスタンスという南アフリカのデザートワインも、そういうワインの一つだろう。
ワインを飲んでいなかった時は、南アフリカのワインといわれてもピンと来なかった。
しかも甘口のデザートワインだ。
しかし、調べてみるとこのワインは伝説的な背景を持っている。
このワインは、クレイン・コンスタンシアという1685年に創業したワイナリーのフラッグシップ・キュヴェだ。
ジョージ・ワシントンなど歴史上の人物たちが愛したらしいが、その中でも特に愛飲したのがナポレオン・ボナパルトだったという。
ナポレオンがセント・ヘレナ島に亡命した後、シャンベルタンの供給も絶たれたため、このワインを毎月30本以上購入していたそうだ。
しかし、そんなワインも19世紀末になると、疫病の流行や貿易の制限からその生産が途絶えてしまう。
それから100年の時を経て、伝説となったこのワインの復活を目指す動きがあり、1986年についに復活に成功する。
さらに2000年代に入り有機農法を採用、ボルドーの資本が入ったことでより近代化して今に至る。
各ワイン評価誌からは軒並み高評価を受け、その年のベストワインにノミネートされるほどだという。
このワインに使われる葡萄品種はミュスカ・ド・フロンテニャン100%、そのブドウを二ヶ月もかけて様々な糖度で収穫するらしい。
天然酵母を使い、500リットルの木樽で半年から1年もかけて発酵させ、その後フレンチオークやハンガリアンオークで3年以上熟成させる。
それから区画や糖度別にブレンドして仕上げるという、手間ひまを惜しみ無くかけたワインだ。
にも関わらず安いネットショップだと、ヴィンテージにもよるが税前8,000円で売っている。
これは奇しくも、私がトルベイグのアルトグランを買った値段と同じだ。
そのヴァン・ド・コンスタンスの評価の高い2017ヴィンテージを購入。
容量は500mlのこのボトルを少し休ませた後、自宅で開栓しテイスティングしてみた。
【テイスティング】
熟したアプリコット、はちみつをかけたホワイトグレープフルーツ、乾燥したハーブ、ジンジャーやナツメグなどのスパイス、生キャラメル。
ほんのり海の香りがするし、甘味があるが強すぎず酸もあってバランスがいい。
半生の枝付きレーズン、香水のようなアロマティックな香り、ジャスミンのフローラルさ、完熟安納芋の蜜、ダージリンの紅茶。
バニラのようなコクやクリーミーさ、マーマレードをかけたヨーグルト、黄桃のシロップ、オレンジオイル、柑橘の皮の苦味。
栓を抜くと立ち上る妖艶な香り、甘口ではあるが酸があるためスッキリしていて飲み進む。
また、食事に合わせなくてもウイスキーのように単体でもおいしく飲める。
アロマが特徴的でスパイス感が独特、かつハーブ、フルーツ、スパイスの融合が素晴らしい。
ナポレオンじゃないが、500mlだし軽く1日1本は飲めてしまいそう。
トルベイグと同じような値段で買えるのが信じられないし、フルーティーさを求めて高いお金でアイリッシュや1996のベンネヴィスを飲む人に、このワインを飲んだ感想を聞いてみたい。
求めているのはこの味、このフレーバー構成ではないかと思う。
微かなトロピカルフルーツを大きく感じるようになるため高いお金を出す、修行みたいな行為をする必要がなくなるのではないか。
私が知らなかっただけかも知らないが、こんなワインがこんな値段で買えるなんて、ものすごい事だと思う。
今でこんなにおいしいなら、熟成を経ると一体どうなってしまうのか。
これがあるからワインの世界を彷徨うのはやめられないし、興奮が収まらない。
このワインを知ってよかったと心から思える、極上のデザートワインだ。
【Excellent!!】