新興蒸溜所の建設ラッシュから少し時間が経ち、新しいウイスキーを飲む機会が増えている。
新しい蒸溜所は、ウイスキーが熟成して完成を迎えるまで売るものがない。
そのため、その期間をどう乗りきるかが一番難しいといわれる。
蒸留したスピリッツを詰めた樽を売ったり、未完成品を売ったりして、資金を得ないと続けていけない。
ではウイスキーの完成品ができるまでどのくらいの期間を必要とするのだろう。
スコッチを擁する英国では、3年間オークの樽で熟成させないとその酒はウイスキーとは呼べない。
では3年経てばウイスキーは完成するのだろうか?
今でこそ熟成年未表記のノン・エイジ・ステイトメント(NAS)も増えた。
しかし、私が飲み始めた頃はスタンダードと呼ばれるウイスキーは、例外を除き最低10年の熟成表記があった。
グレンリベットやグレンフィディックなどのスペイサイドの大蒸溜所は、12年ものがエントリーラインだった。
また、ラフロイグやタリスカー、アードベッグなどのピーテッドのウイスキーでも、10年の表記があった。
つまり、スコッチウイスキーは完成するまで、最低10年の時を必要としていたという事になる。
もちろん熟成が長ければ長いほどいい訳ではないが、最低限の熟成は必要だと私は考えている。
しかし、今や私にとっての未完成品を飲む機会が増え、かつ価格も値上がりしている。
それに引っ張られてか熟成の短いものの割合が増えたため、総合的にみると質は低下した。
一つ一つのボトルの質というよりは、バリエーションが減った事と価格高騰が質の低下を感じる要因だと思う。
そうなると、完成品を安価に飲めて、得られる満足度が高い他の酒を飲むようになる。
私にとってそれがワインだったが、日本酒やワインを飲む比率が高くなったウイスキーloverは増えたのではないか。
ウイスキーを飲むのは少し辛くなり、他の酒は『うまい酒』を飲む愉しみが味わえるからだ。
そんな折、前評判の高い新興蒸溜所のウイスキーを飲んだ。
それがバリンダルロッホ蒸溜所のウイスキーだ。
↓↓↓バリンダルロッホのHPはこちら
https://www.ballindallochdistillery.com/
バリンダルロッホはシングル・エステート(単一農場)を標榜するスペイサイドの蒸溜所だ。
2014年にスピリッツの製造を開始し、2015年にビジターセンターと蒸溜所が正式オープンしたらしい。
この蒸溜所自体の歴史は浅いが、オーナーのマクファーソン・グラント家はかつてクラガンモアを所有していた一族だという。
前評判の高い蒸溜所だが、蒸溜所を訪れた人に出す以外、未完成品を流通させてこなかった。
そのバリンダルロッホが発売され入荷したと聞き、興味が湧いたためBarに足を運んだ。
そして、そこに並んでいた三種類のバリンダルロッホを飲んだ。
1200本ボトリングされた7年熟成のエディションNo.1、それと7年9ヶ月熟成のオロロソ・シェリー・バットのシングルカスク、7年4ヶ月熟成のバーボン・ホグスヘッドのシングルカスクだ。
その3つを飲んだが、このウイスキーは新興蒸溜所のものではあるが、私にとっては完成品だった。
『王の帰還』と呼ぶにふさわしいウイスキーで、ウイスキーを飲んでいる愉しみが味わえる。
特に日本の新興は猫も杓子もピーテッドという感じだが、小手先でかわすのではなく地に足がついていて王道感がある。
華やかでフローラル、フルーティーなスペイサイドモルトで、それでいてコクがあり軽くない。
ここから熟成が延びたり、熟成のバリエーションが増えてくると、バーボンカスク系はグレンバーギ、シェリーカスク系はロングモーンのように大きく育っていきそうに思う。
決して安いウイスキーではないが、得られる満足度はそれを上回っている。
この3種を飲んだだけでも、前評判が高かった理由に合点がいった。
また、この蒸溜所はスタンスがいいため、ここが出すウイスキーにがっかりさせられる事は少ないだろう。
もちろん、資金があるからできることだと思うが、自分達が理想とする目指すべきウイスキーの形がしっかりあるように感じる。
ウイスキーっていいなと思える、応援したくなる新しい蒸溜所のウイスキーだった。
【Verygood!!!!】