装甲騎兵ボトムズ40周年記念第42話
クエント星に辿り着いたキリコは、ゴモル市での騒動の後、クメン王国で共に戦ったクエント人のル・シャッコと再会し、シャッコのサンドライナーに乗って、広大なクエントの砂漠に乗り出してゆきました。
昼は灼熱でも、夜は身が凍るほど冷える砂漠で一晩過ごした後、シャッコは突然妙な行動を採り始めます。
キリコ「何をする気なんだ?シャッコ・・・・・・。」
シャッコ「食事だ、砂モグラを捕まえる。」
キリコ「砂モグラ・・・・・・・缶詰があるだろ?」
シャッコ「ある、だが、美味くない。」
シャッコは地面に立てた杭に、槍を擦り合わせました。そこから生じる音は、砂モグラの好物が立てる音と似ているものだといいます。
その音に釣られ、砂モグラが現れました。巨体であるにも関わらず、凄まじい速度で飛び出し、砂の中を縦横無尽に進む獰猛な砂モグラに圧倒されながらも、シャッコの投げた槍が、砂モグラの急所を捉え、砂モグラは砂上に倒れ伏しました。
そうして砂モグラは解体され、一ヶ月分の食糧となっただけではなく、そのまま食事となりました。
シャッコ「どうした?もっと食え。」
キリコ「食慾が沸かない・・・・・・。」
シャッコ「日暮れまでありつけないぞ。こんな美味いものを。」
キリコ「・・・・・・味は悪くないが。」
見慣れない動物の肉だという事に加え、原始的な狩りを見せられ、クエント星がどんな星なのか、キリコは只混乱するだけでした。
砂漠を進みながら、キリコはクエント星での予想しなかったギャップに、戸惑うばかりでした。
キリコ「クメン内乱はどうなった?」
シャッコ「知らん。俺はあの後すぐ、此処へ帰った。」
キリコ「傭兵に嫌気がさしたのか?」
シャッコ「契約が切れたからだ。」
キリコ「俺の方も・・・・・・・話せば長くなるが、いろいろな事ばかりだった・・・・・・とにかく俺は、まともな人間では無いらしい、PSかもしれん・・・・・・それを知っているのか、俺を付け狙っている連中が居る。遅かれ、早かれ、この星にも来る!」
シャッコ「もう来ている!」
キリコ「何!?」
シャッコ「昨夜、空に現れた。低い軌道から監視していたらしい。」
キリコ「それで?」
シャッコ「明け方、見えなくなった・・・・・・。」
キリコ「昨夜は寝てないんだな・・・・・・。」
シャッコ「クエント人は、お前達のように、多く眠らない・・・・・・。」
そんな話をしていた時、キリコはふと遠方に気配を感じ、そこを望遠鏡で見てみると、秘密結社が送ってきたX-ATL-01ーDTのツヴァークが現れました。
キリコ「ATが併走している・・・・・・!この砂漠、いつまで続く?」
シャッコ「クエントには砂漠しか無い。」
キリコ「何処か、隠れられそうな場所は?」
シャッコ「大地の裂け目がある。」
キリコ「一番近いクレバスは?」
シャッコ「もうすぐだ。」
ツヴァークはJ徐々にその距離を詰めてきました。アーマーマグナム以外では、武器らしいものは砂モグラを狩るのに使う槍だけで、とても太刀打ち出来ません。
秘密結社の目的は、キリコ捕獲でしたが、攻撃も辞さない構えでした。
しかし、キリィはクエントの力を恐れて、攻撃には消極的でした。
どうにか一機撃破して、大地の裂け目に避難しましたが、秘密結社はまだ自分を狙っている事を、キリコは感じていました。
キリコ「この谷底か・・・・・・。」
シャッコ「俺の知らない村だ。」
キリコ「随分深い谷間だな・・・・・・。」
シャッコ「谷間の底は暑すぎもせず、寒すぎもしない・・・・・・・クエントという言葉の意味を知っているか?」
キリコ「いいや。」
シャッコ「「谷の底」って意味だ。クエント人は谷のそこで生まれ、そして死ぬ・・・・・・・。」
ツヴァークの攻撃でラジエーターをやられ、少々動きが悪くなったサンドライナーを宥めながら進む二人でしたが、その間でもキリコのクエントへの疑問は深まるばかりでした。
キリコ「判らないなあ!」
シャッコ「何がだ?」
キリコ「何もかもだ!ここへ来ればPSの、俺の秘密が判ると思ったのに・・・・・・通信機も、まともな交通手段さえもない。これがクエントなのか?ただの未開の惑星じゃないか!」
シャッコ「怒っているのか?」
キリコ「いや、ただ・・・・・・想像していたのと、あまりに違う・・・・・・。」
シャッコ「便利な道具は無い訳じゃ無い、誰も使おうとしないだけだ。傭兵に出て、俺も始めて機械の使い方を学んだ。が、殆どのクエント人は、外の世界を知らずにいる・・・・・・。」
だが、そこで秘密結社の四機のツヴァークに遂に見つかり、更に今度はアロンとグランにより、発砲許可も出ていた事で、キリコとシャッコは逃げ回りますが、ツヴァークの攻撃で谷の壁が砕け、多数の岩石が谷底の村を直撃しました。
キリコ「シャッコ!下の村は?」
シャッコ「全滅だろうな・・・・・・。」
そして、二人も遂に追い詰められます。
キリコ「クメンの地獄をくぐり抜けた戦士二人の最期にしては、呆気なさ過ぎるな・・・・・・。」
シャッコ「もう諦めるのか?」
キリコ「弾丸は殆ど無いし、武器もない・・・・・・・。」
そんな弱気なキリコに、シャッコは云います。
シャッコ「お前、随分変わったなあ・・・・・・・・。昔のキリコは弱音を吐かなかった。クエントには無い言葉だが、お前は可愛くなった。」
キリコ「軽蔑したか?」
シャッコ「いや、今のお前の方が、ずっといい・・・・・・。」
秘密結社からの降伏勧告が流された時、シャッコの「投降するか?」というのに対し、キリコはこう返します。
キリコ「いや、まだ暴れ足りん!こいつだけでも充分かき回せるはずだ。クメンの地獄に比べれば、ATの四機位はな。」
シャッコ「それ程変わった訳でもないなあ、お前・・・・・・。」
キリコ「お互いにな。」
キリコはアーマーマグナムで飛び出し、シャッコはサンドライナーを動かし、ツヴァークを攪乱し、サンドライナーの体当たりで一機のツヴァークが倒れ、そこからパイロットを引きずり出したキリコは、強奪したツヴァークで反撃します。
サンドライナーを失う代償でツヴァークを奪い取り、キリコ達は危機を脱しましたが、この事を知ったキリィは、アロンとグランに対して激怒します。
キリィ「AT四機を失い、一機を奪われたという訳か、ええ!!」
アロン「はい、それは事実です・・・・・・しかし、奴等が武器を持っていないという証明になります。」
グラン「砂漠に出た今こそチャンスです!はやく攻撃命令を・・・・・・。」
キリィ「馬鹿め!わしの命令を無視して起こした結果では無いか!!もうよい、下がれ!!」
キリィは双子の科学者の軽率さに、「彼等がこの星について、あまりに無神経すぎる!」と苦い顔をするのでした。
奪ったツヴァークで、シャッコの村に二人は向かっていました。
シャッコ「惜しい事をしたな。一ヶ月分の食糧が、谷底に消えちまった。」
キリコ「シャッコ・・・・・・俺がPSだと思うか?」
シャッコ「PS・・・・・・・確かに普通の人間じゃ無い・・・・・。」
自分をよく知るシャッコからもそう云われ、晴れない気分のキリコでしたが、遂にシャッコの村の入口に到達しました。
地の底に、クエント人の村は確かにあった。
だが、ここにPSの、俺の謎が本当に隠されてるというのか?
文明に見捨てられ、滅びゆく種族。
ここはクエントという名の、只の墓場では無いのか・・・・・・・。
次回予告
クエントとは、谷の底のこと。
数千年を経て、地の底に隠れた超文明を追って、キリコが走る。
クエントの神の子とは?神の子の野望とは?
全てを包んで煙る谷底に、己のルーツを求めてキリコが彷徨う。
次回「遺産」
キリコは追い、そして追われる。